冬鳥の詩

+ 夢と妄想で綴るお話 …

Entries

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

幸福ナ家庭 07

 二の句が継げないとは、まさにこのことだった。
 どう返答したらいいのか……何が正解なのか……もう分からない。
 ただ、え?って……何度も言ってた気がするけど、それすらもうろ覚え。

 ごっつい警察官はここじゃあれだからと、俺と結衣を連れ出し、
 外にあるベンチに座らせ、ホットコーヒーを奢ってくれた。
 そして、言い辛そうな顔をし、でも俺をしっかりと見つめて話し始めた。

  「何から言っていいのか……信じてくれるかも分からんが……
  お前の母さんは病気だったんだよ。」

  「病気……?」

  「あぁ、代理ミュンヒハウゼン症候群……立派な精神病だ。」

  「代理ミュンヒ……?」

 舌を噛みそうな病名だった。
 警察官は苦笑して、もう一度病名を言った。

  「『代理ミュンヒハウゼン症候群』……。
  誰かを傷付けて、それを必死に看病する母親を演じ、周りに関心を持たせようとする。
  簡単に言っちまえば、健気で、献身的な悲劇のヒロインを演じるって感じだな。」

  「……。」

  「『ミュンヒハウゼン症候群』の場合は、自分で自分を傷付け、心配されようとするんだが、
  お前の母さんは代理だったからな。代理になったのは……お前の妹なわけだ。」

  「……意味分かんないんだけど……」

 ようは母さんが凪を刺したってことが真実なんだろう?
 でも、そんなの信じられない。母さんはあんなに凪の事が大好きだったのに。
 凪が傷付けば、同じかそれ以上に自分も傷付いていたというのに。
 警察官の言い草じゃ、それが……偽りだっていうんだろう……?
 悲劇のヒロインを……演じる為の―――…。

 何度も小さく首を振る俺に、警察官は溜息交じりに俺に言った。

  「まぁ……そりゃ信じたくないわな。意味が分からなくて当然だ。
  他人に憐れんでほしいが為に、我が子を階段から突き落としたり、
  ナイフで刺したりなんて……想像したくもないよな。」

 警察官の言葉に、俺は目を見開いて固まった。
 だってこいつは今―――…母さんが凪を階段から突き落としたって言ったんだ……
 あんなに泣いていたのに?あんなに心配していたのに?母さんがやったの??
 そんなわけない。だってあれは……

  「え……階段から……突き……??凪が自分で足を滑らせて落ちたんじゃ……?」

 困惑の色を浮かべる俺に、警察官は小さく首を振って言う。

  「俺らも最初はそう思ってたよ。けど、結衣ちゃんが色々調べてくれてな……。
  凪ちゃんは、あの突き落とされた日以降、母親に恐怖を感じる様になったみたいで……
  母親に突き落とされた旨を、友達にメールで送っていたんだ。
  最後に…………『お母さんに、殺される』って付けてな……。」

 絶句した。
 だって、そんな風に見えなかったから。
 凪は毎日楽しそうに笑っていたから……あんなに……元気だったから……。

  「う……そだ……何で俺に言わないんだ……?何で……??」

  「お前、家族がまた笑って暮らせるように頑張ってたらしいな?
  凪ちゃんのメールに『お兄ちゃんのお願い、出来るだけ叶えてあげたいんだ。』ってあった。
  家族の為に懸命に頑張るお兄ちゃんには言い辛かったんだろう。
  心配なんてかけたくなかったんじゃないのかな。」

 全て意味が無かった。

 警察官の言葉で俺はそう悟った。

 幸せな家族なんて望んだから。
 皆で笑って暮らせればと望んだから。
 母さんの笑顔や、凪の楽しそうな笑い声が―――…

                 所詮、上辺だけだったなんて……。

  「……おい、落ち着け。顔真っ青だぞ……。」

  「落ち着け……?無理に決まってるでしょう……。
  全て無意味だった……俺のやってきたことが凪を苦しめた……。
  母さんの心境や病気に気付いてやれなかった……。
  また元に……父さんが生きてた頃みたいに、笑って暮らせればよかっただけなのに!!」

  「穂!!」

 思わず声を荒げた俺の腕を、結衣が取った。
 結衣の温かい体温が腕に伝い、ほんの少しだけ落ち着く事が出来た……。

  「穂……全てじゃない……私ッ……私がいるでしょ!?
  私、ずっと穂と一緒にいる!!穂の傍に!!落ちていったりしない!!絶対に!!!!」

  「結衣……」

  「幸せな家庭を作ろ?穂の望む、笑顔で溢れる家族を作ろうよ……ッ。
  私も、笑いたい……穂と一緒に笑っていたいよう……」

 泣きながら言う結衣を前に、俺はたまらなくなった。
 結衣と一緒に泣きじゃくり、ぐちゃぐちゃな頭を整理する事も出来ず、ただ泣いた。
 警察官は何も言わずにずっと傍にいてくれた。
 家族を失った喪失感と、助かったという安堵感。
 これからどうすればいいのかという、先の見えない恐怖感―――…

 でもたったひとつだけ、分かってる事があった。

  「結衣……俺……お前のこと、絶対……絶対幸せにするから……」

  「うん……ッ」

  「俺について来てくれる……?俺、頑張るから……結衣に苦労掛けさせない様に―――…」

  「掛けさせていいよ。……家族になるなら、全部半分個にしよ……?
  穂が全部背負う必要なんてないんだよ。二人で……笑って暮らそ……?」

  「結衣……ッ……ありがと……俺……ッ」

  「ううん、気にしないで。こうやって穂が戻って来てくれただけで、凄く嬉しいんだから!」

 唯一残った大切な者。
 俺はそれを必死で抱き締めた。

 そんないちゃつく光景に耐えられなくなったのか、警察官がベンチから立ち上がって言う。

  「ったく、こっ恥ずかしいガキ共だな……。一目気にせずいちゃつきやがって……。
  ……まぁ、お前も彼女に感謝する事だな。……散々走りまわって証拠見付けてきたんだぞ。
  いい彼女持ったじゃねぇか。」

  「……結衣……本当にありがと……」

  「ううん!全然ッ!!だって私は―――…」

  「あ~ぁぁぁ……またいちゃいちゃと……。
  んじゃ、お邪魔虫は消えますよ~っだ。」


 警察官はいちゃつく二人に背を向け、警察署へと向かう。
 歩いている途中、二人の会話が風に乗り、耳に届いた。


  「ん……結衣、また腕怪我してる……」

  「あ……こ、これは電柱で打っちゃって……」


 不意に、嫌な予感が警察官の脳裏をかすめた。
 ゆっくりと振り返り、いちゃつく穂と結衣を視界に入れる。


  「前も擦りむいたって言ってたし……気を付けろよ……?」

  「うん、ごめんね?えへへ、結構ドジだからさ。」

  「ったく……結衣までいなくなるのは勘弁だからな……」

  「いなくならないってば!」


 そんな会話を繰り広げる二人の横を一陣の風が舞った。
 結衣の柔らかい布をしたスカートがなびく。
 その瞬間、結衣の左右の太ももに、幾重にも巻かれた包帯が警察官の目に入った。


  (―――…あの女も……?……いや、まさか……な……。)


 警察官は一抹の不安を抱きながらも、目を伏せ、
 二人の会話から逃れる様にして警察署へと入って行った―――…


  「結衣、これからも宜しくな。」

  「勿論だよ、穂!もう絶対離してあげないんだからね!!」

  「あっはは、それはこっちの台詞だ。絶対離れてやらないからな!」

 肌寒い季節。
 俺と結衣は各々の体温を確認する為、きつく抱き締めあった。
 この先、きっと笑顔で溢れ返る家庭を築けると確信し、思わず顔が綻んだ。
 結衣とならやっていける。幸せな家庭を……幸福な家族を……笑って暮らせる生活を……。

 俺は結衣を抱き締めた腕に力を込めた。
 もうこの手が解けない様に。祈りを込めて―――…

   きつく ―――… きつく ―――…



                                                   - 完 -


  + 前へ

スポンサーサイト

*Comment

Comment_form

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

左サイドMenu

プロフィール

筱

Author:筱
初めまして。
管理人の筱 - シノ - と申します。

現在

『Battle Mermaid』

を綴っています。

どうぞ、
仲良くしてやって下さい!

BlogRanking
↑もし宜しければ、
ひと押しお願いします。

最新記事

最新トラックバック

月別アーカイブ

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。