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冬鳥の詩

+ 夢と妄想で綴るお話 …

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幸福ナ家庭 05

 凪が退院して数日。我が家はいつも通りの日々を過ごしていた。

  「おにーちゃんッ!!卵焼き作ってーっ!」

  「はいはい。」

 元気に回復した凪は前にも増して笑うようになった。
 ちょっと不自然にすら感じる笑顔だが、
 家の中が暗くならずに済むのは凪のおかげなのだとつくづく思う。

  「……お兄ちゃん……それ、卵焼きじゃなくて、スクランブルエッグ……だね……」

  「……はっ…………」

  「はっじゃない!も~ッ!!朝の忙しい時間に、ほんっと役に立たないんだから!!」

  「俺に料理を任せる凪が悪い。」

  「まったくもってその通りですね!!!スミマセンデシタッ!!!」

 こんな下らない会話をしていると、リビングでどこと無くまだ元気のない母さんが小さく笑う。
 また平和な家庭が戻ってきた。幸せな家庭が……。俺はそのことが心から嬉しかった。

 朝になり、凪と喧嘩しながら朝食を作り、
 母さんは近所の人達と話し、俺は会社に、凪は学校に向かう。
 夕方、家に帰れば凪の作る夕食のいい匂いが限界まで漂い、
 庭でぼんやりしている母さんを家に入れ、家族で食卓を囲む。
 他愛ない会話をし、皆でテレビを見、笑い合う。

   そんな幸せな暮らしが続いていたんだ ―――… あの日までは。


 俺はいつも通り凪と喧嘩しながら作った朝食を食べ、弁当を鞄に詰め込んで外に出る。
 今日は早起きしたのか、母さんは玄関前を掃除をしながら近所の人達と喋っている。
 邪魔しちゃ悪い気もしたし、無言で行こうとしたら、
 母さんが振り返って優しい笑顔で手を振ってくれた。

  「いってらっしゃい、穂。」

 あまりに久しぶりなその笑顔に、俺は凄く嬉しくなった。
 今までは、笑っていてもどこか影の様なものがあったから。
 だから、今日の母さんの顔を見てると、何だか良いことが起きそうで、
 俺も笑顔で母さんに手を振った。

  「行ってきます、母さん。」

 一気に軽くなった気分で俺は会社へと歩いて行く。

  「凪ちゃん、大変だったわねぇ~……奥さん、看病疲れしてるんじゃない?」

  「いえ、平気ですよ。
  たった三人の家族なんですもの……私はあの子達の為なら、何も苦にはなりません。」

  「まぁ、立派ねぇ……でも凪ちゃんも穂君も本当にいい子よね~。
  奥さんの育て方がよかったのかしら?」

  「とんでもないです。あの子達が自分の意思で―――…」

 そんな会話を耳に入れながら―――…



 夕方。
 太陽が沈み始め、オレンジ色の光が辺りを照らす。
 俺は会社から解放され、門前で大きく伸びをし、走って家へと帰る。
 さして近いわけではない道のりだが、運動不足解消には調度よかった。
 そうだ、今週の日曜は凪と母さんと、バドミントンでもしに公園に行くかな。

  ―――… その時は、そう考えていたんだ。

                そんなのもう……無理だったのに……

 家に帰ると、母さんは相変わらず庭でぼんやりしていた。
 そろそろ寒くなってきたし、早めに家に入る様に言わなくちゃと考えた瞬間、
 変な違和感が俺を襲う。夕飯の匂いがしないのだ。

 俺は靴を乱暴に脱ぎ捨て、急いでキッチンに向かう。だが、凪の姿は無かった。
 もしかしたら、友達と遊んでいるのかもしれない。
 なら、凪のことだから、俺か母さんには連絡しているはず。
 そう思って、庭でぼんやりしている母さんの肩を揺すって聞いた。

  「母さん、凪はお出かけ?まだ帰って来てないのかな?」

 そう聞くと、母さんは二階を指差し、小さな笑顔を浮かべて言った。

  「帰って来てるわよ。二階に上がって行ったわ。
  何でも、あの子、貴方に日頃の感謝がしたいって言って、大切そうにプレゼント抱えてたわよ。
  本当は言っちゃ駄目だったのかもしれないけど……断らず、ちゃんと貰ってあげなさいね。」

  「……あの馬鹿……気ぃ遣う事ないのに……」

  「ふふ、三人だけの家族だもの。
  貴方は私達の為にどうしても行きたかった大学を断念してくれた……。
  それを一番悔いているのは凪なのよ。……私が大きかったらって何度も言っていたわ。
  不甲斐ない母親でごめんなさい、穂……私は……貴方の幸せを―――…」

  「あああっ!湿っぽい湿っぽい!!
  気にすんなって!俺は母さんと凪と、一緒に笑って暮らせればいいんだ。
  父さんの代わり……なんて立派なもんじゃないけど、出来る限りはするんだからさ!」

 俺は母さんの柔らかい髪の毛を何回か撫でて、
 「腹減ったぞ~」って言う為に、凪の部屋へと向かったんだ。

  それが間違いだった。

   あんな光景……見たくなかった……


  ガチャリ と音を立てて扉が開く。


 その瞬間、鼻をつく異臭―――…
 目に飛び込んできた、鮮やかな赤―――…
 横たわる―――…凪……

  「な……ぎ……?」

 真っ赤に染まった部屋に恐る恐る足を踏み入れ、横たわる凪を自分の腕で抱く。
 俺は……震える声しか出せなかった。

  「な……なぎ……?ちょっと待てよ……じょうだん……だろ……?
  なんのサプライズだよこれ……やめろ……よ……目……あけろ……
  おいってば……なぎ……凪…………おい……な……ぎ……
  やめろ……やめろってば……おいこら、いい加減にしないと怒るぞ……?」

 全く動きすらしない凪を俺はひたすらに揺すった。

 右胸にナイフを突き立てている凪。
 氷の様に冷たくなった凪。
 首がパックリと開いた凪。

    気ガ……狂ィソウ―――…

 叫びたかった。
 思い切り泣いて、この場所から出て行きたかった。
 でも―――…下に母さんがいることを考えると出来なかった。
 だって、母さんにこんな光景見せたら……母さんはまた壊れてしまう……
 俺が……俺が何とかしなきゃ……まずどうするんだ?何をするんだっけ?
 救急車……?もう……動かないのに……??警察?117番だっけ……?
 どうすればいいんだ??何を―――…

  「ひっ……」

  「!!」

 突然聞こえた小さな悲鳴。
 困惑していた俺は一気に理性を取り戻した。

  「かぁ……さん……母さん!こっちに来ちゃダ―――…」

  「穂……な、なんてことを……?」

  「――――――…え?」

 耳を疑った。
 今……何て言ったのか……理解すらしたくはなかった。

  「穂……何で……凪を……??」

  「か……かぁさん?何言ってんの?俺が……」

  「近付かないで!!!!嫌……いやあああああああああああああああああっ!!」

 全てが遠くに聞こえた。
 まるでこの光景を離れて見ているかの様な感覚だった。
 異臭の漂う部屋に響く母さんの悲鳴……そして冷たい凪の体……ぬめりとする……血液……


 全てが―――…

      偽りに思えて―――…


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