冬鳥の詩

+ 夢と妄想で綴るお話 …

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Battle Mermaid 15

 普段は賑やかな皇国『リムドア』ギルド。
 だが、今、この瞬間は虫の羽音すら鮮明に聞こえきそうな程に静かだった。
 少し強めに吹いた風がカタカタと窓ガラスを揺らす。そんな中、
 冒険者達の視線はしっかりとアデットを捉えていた。
 アデットも冒険者達を見回し、緊迫した声で言う。

  「魔国『ユグドラ』ギルドに、最強と呼ばれるアンデッドが出現した。
  ……あの様子じゃ恐らく、最悪の状態だろう……」

 店内が少しだけざわつく。『最悪の状態』がなんなのか皆理解しているようであった。
 アデットは言葉を交わし合う冒険者達の喋り声など関係なく、話し続ける。

  「……最強と呼ばれるアンデッドは二体いる。片方は魔国を。
  そしてもう片方は、皇国を目指してるそうだ。」

 ざわつく範囲が次第に広まる。アデットは少しだけ悲しそうな表情を浮かべ、震える声で言った。

  「最強のアンデッドの一人……魔国のギルドを潰したのは……ティスタ……。
  ティスタ=シルベルトだ……。」

 その名を聞いた瞬間、店内から音が消えた。そんな中で、アデットの声だけが空気中を舞う。

  「で……今こっちに向かっているのが………………イルイ……イルイ=リザウェル……。」

 それを聞いて、誰も動かなかった。いや、動けなかった。
 敵となった人物の名前を聞き、あまりの恐怖に体がすくみ上がる。

  「イルイって……ハクとネスとつるんでた……?」

 光り輝く銀色の鎧を着た冒険者がアデットに問う。

  「あぁ、あの『イルイ』だ。」

 アデットがしっかりと頷くと、酒場が一気に騒がしくなる。
 皆、恐怖を少しでも紛らわそうと、仲間と会話を交わす。
 その光景に、アデットは深い溜息を吐いた。

  (……やっぱこうなるよな……。
  この国の英雄だったイルイが……自分達を殺しに来るんだもんな……。
  こんな状態で―――…いや、万全の状態だって勝てる気がしねぇよ……。
  戦いのスペシャリスト相手じゃ、足掻いたって無駄だな……国より、命の方が大切だ。)

 アデットは数回深く呼吸し、騒ぐ男達に言う。

  「聞け!!頼みの綱であるハクとネスは辺境地の仕事でしばらく帰れねぇ!
  てめぇらは……さっさと逃げろ。死んじまったら何の意味もねぇんだ……。逃げろ。
  ギルドに来るな。イルイ相手じゃ、てめぇらが何人いたって敵いやしねぇ……。
  一刻も早く逃げるんだ。」

 言い終えると、自分の仕事は済んだとばかりにアデットは椅子に座り煙草に火を点ける。
 そんなアデットに、一人の男が聞いた。

  「あんたは……逃げないのか……?」

  「ん……まぁな。ここは俺の家みてぇなもんだし。
  ……それに……あいつが……イルイが帰って来たら、
  『おかえり』くらいは言ってやりてぇんだよ。……その後なら、死んでも構わねぇや。」

 切なく笑ったアデットの顔が、冒険者達の心を熱くさせた。
 皆逃げ出したくなる心を抑え、出る気はないとばかりに椅子に座る。
 そんな冒険者達に、アデットは苦笑を浮かべた。

  「馬鹿……無理すんな。お前ら……ほんとに死んじまうぜ?」

 アデットの諭す様な声に、冒険者達は声を上げる。

  「イルイになんざ、負けてたまるか!!」

  「ギルドは俺らの家でもあるんだぜ!アデットッ!!」

  「勝てなかったとしても……ハクとネスが帰ってくるまで持ちこたえてやるさ!!」

  「そうそう!それに、もう冬が近い……もしかしたら、レグも帰って来るかもしんねぇ!!」

 一人の男が発した『レグ』と言う言葉に、冒険者達がこぞって反応を返す。

  「そうだ……そろそろレグが……」

  「あいつが帰って来てくれりゃあ、余裕でハク達の帰りまで持つよな?!」

  「むしろ、倒せちまうんじゃね?!!」

 嬉々とした声を制す様に、アデットは厳しい声色で言い放つ。

  「レグは……確かにそろそろ帰って来る頃だろうが、当てにはならない。
  自由気まま過ぎる冒険者に期待するな。
  イルイが来た時にレグがいる可能性なんざ、0.1%くらいの確率でしかねぇんだ。
  ……お前らだって分かってんだろ?現実から逃げるな。
  ……逃げるなら、ギルドからにしてくれ。」

 アデットの一喝に、店内は先程の騒ぎが嘘かと思う程に静まった。
 皆、どうしようもない状況にうつむく。
 続く沈黙の中、『逃げろ』の言葉に従い、数人の冒険者が恐怖に負け、
 アデットに頭を下げながらギルドを出て行った。アデットは店内をぐるりと見渡す。
 まだ何人もの冒険者が椅子にへばり付いていた。

  (意地張るな……お前らも逃げろ。
  本当に死ぬんだ……お前らは若い……まだ死んでいい歳じゃねぇんだよ。
  逃げろ……頼むから……。)

 そう思った矢先、バンッとテーブルを思い切り叩き、大剣を背負う大男が立ち上がった。
 過去、ネスと一戦交えて無惨な敗北を経験させられた男、ディードリッヒだった。
 ディードリッヒは強く拳を握り、闘気に満ちた表情を浮かべて大声で言い放った。

  「イルイがなんだよ!!俺は……俺は勝つんだ!!
  ハクだって、ネスだって、イルイだって、ティスタだって、ぜってぇ俺が倒してやるっ!!
  アデットが何と言おうが構わねぇ!!!俺が倒すんだ!!」

  「……ディードリッヒ……」

 やる気を溢れさせ、ディードリッヒはニヤリと笑う。
 勝てる根拠もないのだが、やけに自信満々だった。
 そして、その叫びに呼応するかの様に、他の冒険者達も立ち上がり大声で叫んだ。

  「そうだ!俺も手ぇ貸すぜ、ディード!!」

  「おう!!」

  「しゃぁねぇな!俺も手伝ってやんよ!」

  「っち……お前が行くなら、俺も行くぜ。」

  「そうだな……何もしねぇより、やっぱ戦って死ぬ方がいいぜ。」

 次々と立ち上がり、ディードリッヒの周りに集まって行く冒険者達を見、
 アデットは深く溜息を吐いた。

  (……ディードリッヒの馬鹿……。なに意思統合させてんだよ……。
  さっさと逃げろっつったのに、皆巻き込んで意気込むな阿呆、馬鹿、間抜け。
  ……でもまぁ……覚悟が決まったなら、俺はそいつらの世話をするだけか……。
  イルイ……お前が……この国を、俺らを、忘れていないことを願ってるぜ。)

 恐怖に打ち勝つ冒険者達の勢い付いた声をよそに、
 アデットは窓から見える雲ひとつない空を見上げる。
 アデットの不安や、悲しみなど関係ないとばかりに晴れ渡った空は、
 不穏な空気など一切かもし出す事無く、綺麗だった―――…


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*Comment

NoTitle 

ウワァァ━━━━。゚(゚´Д`゚)゚。━━━━ン!!!
  • posted by 卯月 朔 
  • URL 
  • 2009.12/19 21:17分 
  • [Edit]

卯月様へ 

いらっしゃいませ!

こんばんわッ!
ど、どうしましたか!?
アデットの決意に涙ですか!?
はっ……そ、それともディードリッヒが余りにも馬鹿過ぎるから……!?
どちらもあり得ますよね??!

卯月様、気をお確かに―――――ッ!!
  • posted by 筱 
  • URL 
  • 2009.12/21 18:56分 
  • [Edit]

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