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冬鳥の詩

+ 夢と妄想で綴るお話 …

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幸福ナ家庭 04

 病院に着くまで、啜り泣く母さんを心配してか、救急隊の人達が優しく声を掛けてくれた。
 そのおかげか、母さんもだいぶ落ち着きを取り戻し、病院に着いた時には泣く事を止め、
 タンカーで運ばれる凪の傍にずっと寄り添っている。
 そんな光景を見ていると、救急隊の一人が声を掛けてきた。

  「お兄さん、大丈夫ですか?」

  「……あまり。」

  「……ですよね、無神経な事を聞いてしまってすみません。」

  「いえ。あ、母親を落ち着かせて下さったこと、感謝します。」

  「そんなっ!とんでもありません。……しかし、とても献身的なお母様なのですね。
  我が子を大切にしているというのがよく伝わってきます。
  ……妹さん、元気になられるといいですね。」

  「……三人しか……いませんからね。二人になるのは寂し過ぎます。」

  「そうですね。」

 寂しそうな表情を浮かべる救急隊員に一礼し、俺は集中治療室へと向かった―――…



 集中治療室前へ向かうと、母さんと看護師の姿が目に映った。
 憔悴しきっている母さんの背を看護師が擦っている。
 俺はあまり迷惑を掛けてはならないと思い、母さんの傍に駆け寄った。

  「母さん、看護師さんに迷惑かけちゃ駄目だよ。
  凪なら……絶対に大丈夫だから……あいつが俺ら置いて逝くわけない。」

  「ッ……どうして……どうしてそんな事が分かるのよ!
  もしあの子が死んだら……私と穂の二人きりなのよ!?家族が減るのはもう嫌ッ!!」

 病院で叫ぶ母さんを何とか落ち着かせようと、俺も背を擦る。
 看護師は、荒れる母さんに優しい声で言った。

  「大丈夫ですよ、お母さん。貴女がそんなに家族を大切にしているのだから、
  減るわけないじゃないですか。」

 看護師の言葉に何も返さないものの、母さんは何度も何度も頷く。
 看護師は切なげな笑顔を浮かべてひたすら母さんの背を摩ってくれた。

  「お母さんとお兄さんは非常には立派な方々ですね。
  大丈夫、こんな素敵な家族を残して、凪ちゃんは死にませんよ。」

 その優しい笑顔を受け、俺は心にもない笑顔で返す。……仕方ないだろ。
 だって……母さんと同じくらい、俺も凪のことが心配で堪らないんだから……。

   もう家族が消えるのは嫌だった。

    もう母さんが泣くのは嫌だった。

     もう……大切なものが傷付くのは ―――…



 何人もの看護師に励まされ、俺も母さんを落ち着かせ、
 ただ神という不確かな存在に祈りを捧げる。
 俺の命と交換してでも……凪に助かって欲しかった。
 そう思った矢先、『手術中』と書かれた赤いランプの色が緑へと変わる。

   凪……凪……ナギ…………

 頭の中には凪の名前しか流れてこない。
 あの時、凪が死んでいたら……俺は間違いなく発狂してたと思う。
 でも、凪は俺らの祈りに応えた。

 そう……手術は成功したんだ。

 俺と母さんは急いで凪の傍に寄った。麻酔が効いている為か、昏睡状態だったが、
 凪の小さな胸が上下しているのを見ると、安堵感に包まれていくのを感じた。
 母さんもその顔に笑顔を浮かべて、愛おしそうに凪の頭を撫でていた。
 よかった……家族が減らなくて……俺は純粋にそう思っていた。



 凪が意識を取り戻して四日後。
 俺は仕事終わりには必ず凪に会いに来ていた。
 おかげで結衣とのデートはご無沙汰だけど、ちゃんと許可も貰ったから、問題ない。
 ……と、思うけど、服ぐらいは買ってやらなきゃ罰が当たりそうだ……。

  「凪~、ケーキ買って来たぞ~。」

 そう言ってノックもせずに病室に入った。
 夕日の綺麗なオレンジ色した光りが凪の病室を照らす。
 凪は俺の声が聞こえてないのか、沈みゆく夕日を何処か切なげな表情で見ていた。

  「なぎ……?」

 その横顔を見ると無性に不安に駆られた。
 また凪が消えてしまうんじゃないかと思うくらいに、儚い表情だった。
 ぼんやりと夕日を見ていた凪は、不意に俺の存在に気付いたらしく、慌てて笑顔を作っていた。

  「な、なんだ、お兄ちゃんか……。
  また来たの~?寂しがりやさんだなぁ♪いい加減妹離れしなよね!」

  「なっ……お前が寂しいだろうと思って来てやってんだぞ?!
  そんなこと言うなら、ケーキやらないからな。」

  「あぁぁぁぁぁっ!!ごめんッ!!ごめんなさい、お兄さまぁあああぁぁぁッ!!」

 ケーキを持って帰ろうとする俺を凪は必死で止めた。最初からそう言えばいいのに……。
 まぁ、素直じゃないのも可愛らしい部類に入るといえば入るか……。

  「ほら、チョコレートケーキだぞ。」

  「うわぁいッ♪私の大好物じゃん!流石お兄ちゃん!!分かってるねぇ♪」

 凪は嬉しそうに備え付けのフォークを取り、食べ始める。
 幸せそうに食べる様を見てると、こっちも幸せな気分になる。不思議だ。

  「そういや、母さんは?今日は来てないのか?」

  「……。」

 そう言った瞬間、凪の動きがぴたりと止まった。
 あの、夕日を見ていた時の様な表情に変わる。
 だが、凪がすぐに笑顔を作り直した。

  「今日は来てないよ!お兄ちゃんも毎日毎日来なくていいんだからね?
  もう明日には退院なんだしさ♪」

 いつにも増して元気な凪の言い方が気になったが、俺は苦笑して凪の頭を撫でてやる。

  「大切な妹が寂しい思いしないように毎日来てやってるってのに、酷い言いようだな。」

  「あはは♪ありがと、お兄ちゃん!
  でも、私からしたら、大切な兄が過労死なんてしたら大変だから、
  さっさと帰って休養をとってほし~んだけどなぁ?」

  「はは、お前と母さんがいるのに、過労死なんて出来ないよ。」

 俺がそう言うと、凪は顔を伏せ、耳を傾けてぎりぎり聞こえるくらいの声で言った。

  「………………う……ん、そうだね……。」

 流石の俺も変に思って、凪に聞いたんだ。

  「……何かあったのか?」

 って。
 けど、凪はわざとらしいくらい首を左右に振って、満面の笑顔で返してきた。

  「な~んにもッ♪あ~ぁ、早く退院して学校行きたいなぁ!」

 変だという核心は抱いた。だが、凪はそれに触れられる事を拒んだ。
 だから、俺はそれ以上近付こうとはしなかったんだ。

  「何言ってんだか……。学校行ってる時は休みたい、休みたいって連呼してたくせに。」

  「一日、二日なら思うけど、こう長く病院にいると行きたくなるの!!
  んもぅ、お兄ちゃんは相変わらず女心が分かってないんだから!!
  私のとこに来てる暇があるなら、結衣さんとデートのひとつでもしてきなよね!」

  「うるさい妹だなぁ~……
  電話とメールは毎日してるし、凪のとこに行くから会えないってのも了承とってる。
  なんら問題ないんだよ。」

  「そんなことばっかやってると、本当にフラれちゃうんだからねッ!!
  結衣さん、かわい~~~から、他の男がほっとかないと思うよ~?
  あ~……もう手遅れかもね~?」

 ……いつからこんなマセガキになったのか……。余計なお世話だ、馬鹿凪……。

  「うっせ!結衣は凪とは違うんだよ!ったく、あんま俺をいじめてると痛い目みるからな!!
  ケーキも買ってやらないし、勉強も見てやんないぞ。」

  「えっ、卑怯だよ、それ!!ちょっ……うぅ~~…………ごめんなさい……。」

 不服そうに言う凪。そんなにケーキが好きなら、
 退院祝いは嫌がらせかってくらい大きなホールケーキでお祝いしてやるかな。

  「素直で宜しい。」

  「ふ~んだッ!お兄ちゃんなんて、さっさと帰ってお風呂入って寝ちゃえ!!!」

  「あはは、そうだな、風呂入って、ご飯食べて、結衣といちゃついてから寝る事にするさ。」

  「むっ!彼氏のいない私に対する厭味??!!!」

  「せ~かぁい。ってことで、俺は帰るぞ。またなぁ~」

  「むきぃーッ!!むかつくぅぅぅッ!!」

 我が妹ながら、可愛いもんだ。素直というか、何というか……。
 俺はあの元気な凪の表情しか頭に残らず、寂しそうに夕日を眺めていた凪の顔など、
 もう頭の片隅にすら覚えていなかった。

 これが……もしかしたら失態だったのかもしれないというのに……


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