冬鳥の詩

+ 夢と妄想で綴るお話 …

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幸福ナ家庭 01

  「面会だ。出ろ。」

 カシャンッと冷たい金属音が鳴り響く。
 手錠をはめられ、重たい鉄の格子戸が鈍い音を立てて開いた。
 俺は虚ろな視線を看守へ向け、無気力に立ち上がる。
 看守は手錠からぶら下がる鎖を引き、俺を面会室へと連れて行った。

 しばらく歩き、看守はぴたりと足を止める。
 眼前にある白い簡素な扉を開け、俺を部屋へと押し込んだ。
 よろけながらも体制を整え、地面に伏せるのを回避する。
 小さく溜息を吐く俺に、看守は扉を閉めながら、冷たい視線を向けて言った。

  「30分間だ。」

 言い終わるのと同時に扉が小さな音を立て、閉まる。
 俺はゆっくりと虚ろな瞳を動かし、面会者へと視線を定めた。
 その瞬間、虚ろな俺の瞳は大きく見開かれ、俊敏な動きで面会者へと駆け寄る。

  「結衣(ユイ)!!」

  「穂(ミノル)!!」

 面会者は俺の愛して止まない恋人、崎本 結衣(サキモト ユイ)だった。
 あまりの嬉しさに、結衣に触れようと手を伸ばす。
 だが、その手は分厚いプラスチックの壁に阻まれた。
 結衣は切なげな笑顔を浮かべ、俺は悔しさのあまり顔を歪ませる。

  「穂、とりあえず座ろうよ。」

 切なげな笑顔のまま、結衣は俺の目の前にある椅子を指差した。
 俺は結衣の提案通り、手錠から長く伸びた鎖を引きずりながら椅子に座る。
 そして、力無く微笑み、結衣の視線を捉えて言った。

  「結衣……面会に来てくれてありがとう。すっげぇ嬉しい。」

  「ふふっ……穂のこと考えてたら、無性に会いたくなっちゃった。」

 無邪気に言う結衣を前に、穂の痩せこけた頬が赤らむ。
 しばらく久しぶりの再会に喜び、何の取り留めもない話しを交わす。
 だが、結衣の一言で、面会室の空気が変わった―――…

  「ねぇ、穂……。聞いていいのか分からないけど……その……どうしてこんなことに……?
  警察の人に聞いても、『お答え出来ません』の一点張り。
  穂のお母さんは悲嘆にくれてるし、
  凪(ナギ)ちゃんだって早く犯人が見付かって欲しいって思ってるはず……。
  私に何も出来ないのは分かってる……でも……穂、もしよければ、話してくれないかな?
  穂が大切な妹である凪ちゃんを殺したなんて思ってない。それを証明したいの。」

 まっすぐな結衣の瞳が、俺の闇に包まれた心に一筋の光を通した。
 俺は結衣の優しく、強い瞳を見ながら、全ての始まりから、刑務所に入る経緯まで、
 隠すことなく話した―――…



 事の始まりは俺が高校を卒業すると同時に始まった。
 父、母、そして妹の凪。どこにでもいる、普通な家族。そして幸せな家族だった。

  「んじゃ、行ってくる。」

  「お兄ちゃん!待ってよぉッ!!」

 支度の遅い凪を置いて家を出る。
 俺は高校、凪は小学校。通学路が途中まで一緒な為、
 いつもは凪に付き合い、待ってやるのだが、今日は卒業式。
 遅刻するわけにはいかない。

  「い、行ってきまぁす!!お兄ちゃん待ってよぉぉっ!」

 凪が慌てて玄関から出、俺を追いかけてくる。追い付いた時には肩で息をしていた。

  「お兄ちゃん、歩くの速いよ!レディに歩幅を合わせるのは礼儀なんだよ!?」

  「誰がレディだよ……。」

  「私に決まってるじゃん♪」

  「阿呆。レディが遅刻ぎりぎりで起きて、どたばた足音ならしながら廊下を走ったりするかよ。
  ほら、ほっぺにご飯粒付いてるぞ。」

  「うそぉッ?!」

  「嘘。」

 ………………。

  「お……おにぃちゃんっっ!!!!!!」

 顔を真っ赤にして怒る凪。
 こんな喧嘩じみた会話も、凪のころころ変わる表情も、楽しくて仕方なかったんだ。
 朝の登校時間は、兄妹の大切なコミュニケーションだった。

 毎朝兄妹で登校している為か、俺と凪は仲良し兄妹として近所では評判だった。
 「いつも仲がいいわねぇ」とか「うちの子達にも見習わせたいよ」とか、何かと声をかけられる。
 実のところ、俺はあまり他人と会話するのが好きじゃない。
 だから、こういったおばさん達の対処は専ら凪だった。

  「えっへへ♪凪はお兄ちゃん大好きだもん!仲がいいのは当たり前でしょ~?」

 決まって言う凪の言葉。正直、何度も聞いているが、慣れない。どうにも照れ臭かった。

  「ほら、愛想振り撒くのもいいが、前向いて歩かないと―――…」

  「きゃっ!!」

   ベシャッ

  「…………転ぶぞ。」

 顔面から地面に突っ込んだ凪。鼻を摩りながら、ゆっくりと立ち上がる。
 綺麗な洋服が少しだけ汚れ、鼻の頭が少しだけ擦れていた。

  「あぅぅ……痛い……。」

  「……馬鹿……。」

  「なにぉぅッ!!?レディ相手に馬鹿なんて酷すぎだよ!!」

 痛さからか、薄らと涙の浮かんだ目で俺を睨みつける。
 その視線をさらりとかわし、携帯電話で時間を確認する。
 このまま真剣に凪の相手をしてると、まじで遅刻しそうな時間になってきた。

  「ったく……しょうがねぇなぁ……。」

 俺は座り込む凪を立たせ、服に付いた砂を軽く払い、擦りむいた鼻の具合を見る。

  「学校着いたら保健室行って消毒して絆創膏でも貼っとけよ、お姫様。」

  「むっ……その言い方、ムカつく!」

  「はいはい、申し訳ございませんでした。お姫様。ほら、行きますよ~?」

  「むぅぅぅぅぅっ!!」

 おちょくる様に言った俺の言葉がムカつくらしく、
 凪は両手をぎゅっと握ってさっさと歩く俺の後ろをついて来る。
 ……まるで金魚のフンみたいだった。

 凪を小学校まで送り届け、俺は高校まで走る。正直、ぎりぎり着くか着かないかだ。
 凪と家を出ると、どれだけ早く出ようがいつもこうなる。不思議だ。

 チャイムぎりぎりで滑り込んだ教室。友人がそんな俺を見て楽しそうに笑っていた。
 荒くなる息を抑える為、席に座り何度も深呼吸を繰り返す。
 が、落ち着く前に担任が教室に到着。
 また遅刻ぎりぎりだったのかと、卒業式の日まで怒られた。
 ……凪の奴……後でお尻叩きの刑だな。


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*Comment

 

 ちわ~v( ̄∇ ̄)v
 w( ̄o ̄)w オオー!開始早々、衝撃的な…
 これから徐々に明らかになるんですね((o( ̄ー ̄)o)) ワクワク
  • posted by 蘭陵邑 
  • URL 
  • 2009.11/17 16:19分 
  • [Edit]

蘭陵邑様へ 

いらっしゃいませ!

こんばんわ!
開始早々、刑務所からです(*´д`)b
穂君の可哀想な日々が始まってしまいますよ~……。
あぁ……想像しただけで気の毒です(泣)

短編小説なので、
出来るだけ短く終わらせるよう頑張ります!!
  • posted by 筱 
  • URL 
  • 2009.11/17 18:56分 
  • [Edit]

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