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冬鳥の詩

+ 夢と妄想で綴るお話 …

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Battle Mermaid 31

  「椿の花です。」

 小さな小さな声。今にも消えてしまいそうなその声をシェリルはしっかりと聞き届けた。

  「つば……き?」

 初めて聞く花の名前に、シェリルは首を傾げる。
 ミュカルは切なげな表情を浮かべ、一言一言噛み締める様に言った。

  「椿とは、ここより遥か彼方……東洋なる場所に咲き誇る赤い花のことです。
  ティータの兄は、この椿の花が大好きで、よく愛でていました。」

 シェリルはティータに兄がいることを知り、
 暗い表情になってしまったミュカルを元気付け様と明るく聞いた。

  「へぇ、お兄さんがいらっしゃるんですね。ティータ君に似ているのですか?
  だったら、かなりの美男子なのでしょうね!」

 無邪気な笑顔でそう言った途端、ミュカルの優しげな瞳から、パタタと涙が滴った。
 シェリルは驚きのあまり絶句し、慌てて謝罪する。

  「はわわっ……ご、ごめんなさい!
  なんか失礼なことばかり聞いてしまって……。本当に……」

 すみませんでした。そう言おうとしたシェリルの言葉を、ミュカルは遮る。

  「いえ、シェリルさんは何ひとつ悪くなどありません。」

 そして、ミュカルは意を決し、シェリルに話しはじめる。

  「ティータの兄は冒険者でした。
  文武に優れた兄は、ものの数週間で上位冒険者に成り上がり、
  アンデッドドラゴンの討伐に赴いたのです。
  ……そして……帰って来ることは……なかったのです……。
  魔国からの連絡で、仲間を庇い、心臓を一突きにされ……
  即死だったのだと聞きました……。」

  「……。」

 掛ける言葉が見つからなかった。いや、むしろ掛ける言葉なんてないのかもしれない。
 そう思った瞬間、シェリルの瞳からも涙が滴る。
 その涙に、ミュカルはおろかティータすらも目を見開いて驚いた。

  「シェリルさん……?」

  「お姉ちゃん……泣かないで……。」

 ミュカルはシェリルの背を摩り、ティータは小さな手で懸命にシェリルの涙を拭う。

  「ごめ……っごめんなさ……ッ……」

 溢れる涙を止める術を知らず、シェリルはまるで子供の様に泣いた。
 ミュカルはシェリルを落ち着かせ様と、柔らかい声で話す。

  「シェリルさん、椿の花って少し特殊でしてね。
  散る時は、まるで……人間で例えるなら首から切れる様に、
  花がそのままぽとりと落ちてしまうんです。」

  「……。」

  「不気味さすら感じるその花が、なんでそんなに好きなのか……聞いたことがありましてね。
  兄は……その散り様が美しいのだと言いました。武士の様だと。
  あ、東洋のナイトのことを武士と言うらしいです。
  ……主君の為に命を懸け戦う武士は潔く、死をも美しく彩るそうです。
  不様な死に方など許せないと……椿の様に、武士の様に……潔く散りたいのだと。」

  「……ひっく……」

  「ティータは、兄に先立たれてしまいましたが、
  その散り様はさぞや椿のそれだったのではないかと思います。
  悲しみはあります。ですが、立ち止まるつもりなんて私にはありません。
  兄が帰って来なくとも、ティータを……
  兄に負けないくらい立派な男に育てあげなくてはなりませんからね。
  シェリルさんが泣く必要などないのですよ。」

  「ご……めんなさ……ひっく……」

 泣きじゃくるシェリルに、ミュカルは優しい笑みを見せた。
 背を摩りながら、感謝の気持ちを込めて言う。

  「ですが、シェリルさんが泣いて下さったおかげで、私の心も何だか軽くなりました。
  まるで自分が泣いたかの様です。……ありがとうございます。」

  「僕もっ!だから……お姉ちゃん、もう……泣いちゃ駄目……。」

 二人の温かい言葉を受け、シェリルは懸命に涙を拭う。
 ミュカルとティータの、悲しみや苦しみ、辛さを感じ取り、
 シェリルの心はぐるぐると渦を巻いていた。

  (この人達が苦しむ必要なんてないのに……戦争が招いた結果なんだ……
  アンデッドドラゴンのせいなんだ……。
  ハクさん……ハクさんもアンデッドドラゴン討伐を目標にしてるはず……。
  私も力になりたい……。私に何か出来るかな……?)

 シェリルは大きく深呼吸を繰り返し、勢いよく涙を拭う。
 そしてミュカルとティータに満面の笑みを見せた。

  「私も冒険者になるんです!もしお兄さんを見付けたら、連れて帰りますから!!!」

  『!!』

 シェリルのその一言に、二人は目を見開き、顔から血の気を失っていく。
 ミュカルは悲しそうな表情を浮かべ、ティータは必死にシェリルへと訴えた。

  「駄目……ッ!お姉ちゃんも死んじゃう……!!冒険者なんか……ならないで!!」

  「こら、ティータ……お止めなさい……。」

  「やだっ!やだ……っ!!お姉ちゃん……行かないで……!
  駄目ッ!!死んじゃ……やだ……!!」

  「ティータ!!お止めなさい!」

  「ッ!!」

 ミュカルの叱咤にティータはびくりと体を震わせる。
 困惑するシェリルは二人を交互に見ることしか出来なかった。
 ミュカルは悪戯をした子供を叱る様な口調で言う。

  「シェリルさんにはシェリルさんのやることがあるの。我が儘言っちゃ駄目でしょう?」

  「でもっ……お兄ちゃんが死んだんだよ?!誰も敵うわけ……ない!」

 ティータの悲痛な声が街道に響く。
 シェリルは泣きながらミュカルに食らい付くティータを優しく抱きしめる。

  「ティータ君、ごめんね?
  ミュカルさんの言う通り、私にはやらなきゃならないことがあるの。だから冒険者になる。
  でも……ティータ君を悲しませたりしないから。ねっ、約束。」

 間近にあるシェリルの顔をじっと見つめ、ティータは泣きながら言う。

  「ほんと……?」

  「ほんと♪」

 迷いのないシェリルの笑顔につられ、ティータの表情にも笑顔が浮かぶ。
 その笑顔につられてミュカルも安堵の笑みを漏らした。
 不意に、ティータが何かを思い出し、自分の懐へと手を突っ込む。
 そして何やら小さな袋を取り出し、シェリルへと手渡した。

  「?」

  「……あげる。」

 不思議そうな表情を浮かべるシェリルとは裏腹に、ミュカルの顔が曇った。

  「ティータ……それは貴方の大切な……」

  「いいの。」

 ミュカルの言葉を遮り、ティータは数回深呼吸を繰り返して言った。

  「それ……癒血丸(ユケツガン)って言うの。
  お兄ちゃんが開発した、代々続く中で……一番の秘薬。
  血を作り出し、傷を癒す薬なんだって。
  ……ひとつしかないけど……僕は皇国から出ないし……
  お姉ちゃん、危なくなったら……使って……。」

  「……いいの?大好きなお兄ちゃんから貰った物なんでしょう?」

  「うん、いいの。……僕、お姉ちゃんのことも……大好きだから……。」

 無邪気な笑みを浮かべるティータに、シェリルも微笑み返す。

  「ありがとう。
  ……私、今は何も持ってないからあれだけど、いつかちゃんとお返しするからね!」

  「ううん、いらない……。お姉ちゃんが生きて……たまにお喋り出来たら……いい。」

  「……頑張る!」

 両手で拳を作って言ったシェリルに、ティータは楽しそうに笑った。
 ミュカルも諦めた様な笑みを浮かべ、シェリルとティータを見つめる。
 そしてその視線を太陽へと移し、ティータに言った。

  「さぁティータ、そろそろ帰りましょう。お昼ご飯の時間よ。」

  「あ……うん、分かった。……またね……お姉ちゃん。眼帯……使ってね……。」

 恥ずかしそうに顔を赤らめて言ったティータの言葉で、右手で握り締めていた眼帯を思い出す。
 慌てて右目に掛けた。ティータは優しい笑みを見せて言う。

  「……似合ってる。」

  「えへへ……ありがとう、ティータ君、ミュカルさん。」

 照れ臭そうな表情を浮かべ、シェリルは二人に頭を下げる。
 ミュカルもシェリルへ頭を下げ、ティータは何度も大きく手を振りながら、帰路へとついた。

 二人を見届けたシェリルはベンチへと座り、ぼんやりと空を仰ぐ。

  (……早く、この死んでしまった大陸が生き返り、争いばかりの双国が仲良くなれば……
  あんな思いをする人はいなくなるのに……。)

 無情な外界の現状を目の当たりにし、シェリルは切ない気持ちに胸を締め付けられた……。


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*Comment

 

ティータ君とミュカルさんの優しさが
心に沁みる~(T▽T
シェリルちゃんの真っ直ぐな言葉にも(≧д≦ノズキューン
すごすぎます!

ティータ君たちのお兄ちゃんがどんな人か気になります!
ああ、きっとカッコいいお兄さんだったんだろうな~
  • posted by 燈 青架 
  • URL 
  • 2009.11/14 20:10分 
  • [Edit]

燈様へ 

いらっしゃいませ!

こんばんわっ!
ティータはシェリルに一目惚れした様ですね★
これはもう、ネスなんか目じゃないですよ……
私だったら、ネスよりティータ君を選びます!!
絶対!!!!(*´д`*)(ぉぃ?!
ミュカルは儚くて強い母親を目指してみました!
兄を失ってもなお、弟であるティータの為に、一生懸命です♪

ティータの兄は出てきますよ~!
カッコいい……というより、可愛い系かもしれません☆
  • posted by 筱 
  • URL 
  • 2009.11/14 23:10分 
  • [Edit]

 

ティ―タ君、可愛いですね~!!
何というか、健気でぎゅうう~っで抱き締めたくなります……!こんな弟がいたらいいのになあ^^
ティ―タ君のお兄さんのお話は切なくて、悲しくて、でもシェリルの迷いのない笑顔が素敵で!あああ、みんな可愛くて素敵すぎますっ……!
椿の花も切なくて、筱様は小道具の使い方がお上手で尊敬します~><
癒血丸も、今度の物語にどう関わってくるのか楽しみですっ♪
それでは、遅読ですがまた読みに参りますね~^^
  • posted by 神田夏美 
  • URL 
  • 2009.11/21 21:58分 
  • [Edit]

神田様へ 

いらっしゃいませ!

こんばんわっ!
ティータとミュカルは、さりげなくシェリルを助けてくれる大切なキャラです♪
ティータはもう、私のブラコン願望が作り出した化身と言っても過言ではないです!
あああっかぁわいいいいっ!!ってなるような弟が欲しかったです(笑)

ティータのお兄さんは、心臓ひと突きなんていう痛々しい死に方させてしまって……。
シェリルはティータに心配かけまいと、満面の笑みですね!
素敵すぎますだなんて、そう思って下さる神田様が素敵すぎます……!!

小道具に所以を付けたりするのは大好きなのですが、
時々忘れてしまうので、そこは困ったものです……(汗)
癒血丸はキッチリカッキリ活躍してくれますよ!
……かなり後の方ですけど!!

お忙しい中でのご来訪、誠に有難う御座います!
お体壊さぬよう、お気を付け下さいまし(*´д`)
  • posted by 筱 
  • URL 
  • 2009.11/21 22:10分 
  • [Edit]

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