冬鳥の詩

+ 夢と妄想で綴るお話 …

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Battle Mermaid 22

  「狂鬼(キョウキ)の魔女―――…」

 ガドットの絶望的な予感が一層強まる。
 静まり返った洞窟に、ガドットの生唾を飲む音がやけに響いた。
 狂鬼の魔女と呼ばれた老婆は、にたりと黒い笑みを浮かべて素知らぬ顔で言う。

  「おやおや、海王ガドット様ともあらせられる御方が、
  こんな老婆を覚えて下さっていたとは……嬉しいかな嬉しいかな……。」

 ふぉっふぉっと笑う魔女に、ガドットの怒りが爆発した。
 椅子の肘掛けを、壊れるのではないかという程に握り締める。

  「また……また貴様か……何度俺の大切な物を奪えば気が済む!!
  エリアナだけでは気が済まなかったとでも言うのか!?」

 エリアナとはガドットの最愛の妻の名である。
 姉妹達も、憎しみの目を魔女へと向ける。

  「おぉ怖い……ですが、勘違い召されるな、
  エリアナ様は何処か気持ち良く歌える場所を探していたから、
  ただ教えてあげただけに過ぎない。
  そこに人間が通りかかり捕食した等と、私には見当も付かぬお話ですぞ?」

 楽しそうな魔女の弾んだ声。
 ガドットは魔女を殺してやりたいという欲望を抑え、震えた声で聞く。

  「じゃあ、シェリルは何故!?」

 その質問に、魔女はニタリと笑って答えた。

  「それもあの子が望んだこと。
  どうにも、乙女心を解せぬ親がいるようでしてなぁ?
  陸に上がりたいと切に願う美しき人魚の願いを叶えてやりたいと思うのは、
  当然でございましょう?」

  「!!」

  「ですが、まさかあの人魚がガドット様のお嬢様だとは知らなんだ……。
  魔力の波長が似、エリアナ様に似ているとは思っておったがな。ふぉっふぉっ。」

  「……ッ……ごたくはいい……今すぐシェリルを連れ戻せ。」

 怒りを込めた言葉を魔女へと投げ付ける。
 だが、魔女はそんな怒りを受け流し、平然と言ってのけた。

  「彼女は相応の代価を払って足を手に入れた……私に連れ戻す権利はありません。」

  「……代価だと……?」

  「えぇ、あの美しき宝石……海の様な青さを持つ右目と、人間の足を交換したのです。」

  「なっ……!?」

 ガドットは思い切り目を見開いた。
 後方で聞いていた姉妹達も顔面蒼白となり、ミィディは恐ろしさのあまりに涙を流す。

  「余程人間になりたかったのでしょうなぁ?
  その心を汲んでやらなかったガドット様が悪いかと思いますが?
  ふぉっふぉっ……精々、彼女が人魚だとばれない事でも祈っておるとよいでしょう。」

  「どういう事だ!」

  「彼女が人魚とばれれば、足元から腐っていく……。
  それはそれで面白そうですがのぉ?
  まぁ、そういう事で、私に彼女を連れ戻す権利はありませんぞ?
  ガドット様程のお力があれば、彼女を人魚に戻す事は出来るやもしれませんが……
  彼女はどう思うのでしょうねぇ?ふぉっふぉっふぉっ。」

  「……っ腐れ外道が……!!」

  「おやおや、酷い言い様だ……。
  私は貴方の可愛い娘の願いを叶えてあげただけに過ぎぬと言うのに……。
  さて……私は研究があるので、これで失礼させていただきますよ。」

 そう言うと、自分を縛っている鎖を見つめ何やら唱える。
 次の瞬間鎖がまるで酸を掛けたかのように溶け始めた。
 鎖を握っていたミィディは鎖から咄嗟に手を話す。
 鎖は音もなく溶け、魔女の身を自由にした。
 ガドットは捕まえる事は不可能だと悟っているのか、特に驚く事もせず、
 悔しそうに魔女に聞いた。

  「……狂鬼の魔女……ひとつ聞きたい事がある。」

  「何でございましょう?ガドット様。」

  「何故……シェリルは人間に……?」

  「あぁ……ふぉっふぉっふぉっ……女性がそこまで想う事と言ったらひとつしかありますまい?
  ……『恋』ですよ、『恋』。彼女は人間の男に恋をした……ただそれだけです。」

 ガドットと姉妹達は再び絶句する。
 自分達の母親を殺した種族に愛を抱く等、考えられない話であった。
 魔女はにたりと笑顔を浮かべる。

  「恋に種族は関係ないでございましょう?
  エリアナ様を殺した人間が悪い人間だった……それだけじゃありませんか?
  人間にもいい者は多々存在いたします。
  ふぉっふぉっ……ガドット様、心を広く持ちませんとねぇ?また大切な者を失いますぞ?
  おおっと、口が過ぎましたかな?では、そろそろ御暇させて頂きますかね。」

 魔女は好き放題喋り、ゆっくりと洞窟から出る。
 その後を慌ててミィディが追おうとするが、ガドットに止められた。
 ガドットは低く、暗い声でセリディアに言う。

  「セリディア……捜索は中止だ。皆に伝えてやってくれ……」

  「……かしこまりました。」

 セリディアが洞窟から出る。
 手伝ってきますと、ミィディとリィリアも洞窟から出て行った。
 ただ一人、ガドットの傍にはリアナが残った。ガドットは、リアナにすがる様に聞いた。

  「シェリルは……無事だろうか……。」

  「……きっと……。」

 確信のない小さな声。リアナも心の潰れる様な思いだった。
 大切な妹が、大切な娘が、母親と同じ終末を迎えるかもしれないと考えただけで、
 頭の中がぐるぐると渦を立て崩壊していく感覚に襲われる。
 ガドットはゆっくりと目を瞑り、深く息を吐いた。

  「あの子の願いを叶えてやっていれば……
  シェリルは何のリスクも背負わず外界に行けた……」

  「……人間は危険でございます。お父様のお心は ―――… 」

  「リアナ……どうあれ、あの子を傷付けたのは俺だ……。
  俺らはただシェリルが無事に帰って来るのを祈るだけ……はは……不甲斐ない父親だな。」

  「お父様……。」

  「そうよな……15年間何も望まなかった子が初めて望んだというのに……
  俺はその思いを蹴ったのだな……魔女にあぁ言われても反論出来ぬわ……。」

 自嘲の笑みを浮かべたガドットに、リアナは落ち込んだ表情で聞く。

  「その心に気付いてやれなかった私達も悪いのです。
  お父様だけが自分を責める必要はありませんよ。
  ……それにしても、シェリルの右目を奪ってどうするつもりなのでしょうね。あの魔女は……。」

  「……さぁな……だが、あの魔女には誰一人として近付けさせるわけにはいかん。
  あの狂鬼の魔女は……容易く我らを手に掛ける。
  己の欲望に忠実な魔女だ。……お前も、絶対に近付いてはならんぞ。」

  「……かしこまりました。私も……捜索終了を他の人魚に伝えてきます。」

  「あぁ、頼んだ。」

 リアナはガドットに深々と一礼し、洞窟から出る。
 ガドットは誰もいなくなった洞窟に一人、顔を大きな右手で覆い、ぽつりと呟く。

  「シェリル……お前の心を汲めなかった俺を……不甲斐ない父親を許してくれ……」

 その声は誰に届く事もなく、海の泡となって消えた―――…


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*Comment

 

許してあげて欲しいです。
本当に。
シェリルはチャント地上で楽しくやっていますよ。
安心してください、お父さん。

と、コメントはここでよかったのですかな・・・?
  • posted by ネミエル 
  • URL 
  • 2009.11/05 23:24分 
  • [Edit]

 

狂鬼の魔女って名前がほんとにね、なんていうか、雰囲気でてるなwwってw

シェリルちゃん・・・・地上ではじつはかなりチャラいですよお父さん・・・・・。
もう彼氏12人くらいいますよお父さん・・・・。

嘘ですごめんなさいお父さんwwww



でも、許してくれないとかわいそすぐる(´;ω;)
  • posted by そのちー 
  • URL 
  • 2009.11/05 23:35分 
  • [Edit]

う~ん( ”・ω・゛) 

確かに…狂気の魔女はシェリルちゃんの右目を何かに使うつもりだったのでしょうか?

魔力が強いから欲しがったような感じだし…う~ん。

でも、お父様の力だったら人魚に戻す事も可能なんだ!と思いました。
でもなぁ、それやっちゃうと尚更嫌われそうな気がするし…。
もう無事を祈ってるしかないですよねぇ(*´д`;)…

でも、大丈夫!
シェリルちゃんにはネスがついてるからッ♪←(あ、ハクもいたけど…うん、やっぱりネス応援派としてはねぇ 笑)
  • posted by 鷹の爪痕 
  • URL 
  • 2009.11/05 23:55分 
  • [Edit]

ネミエル様へ 

いらっしゃいませ!

お父様、シェリルが帰って来たら多分真っ先に抱擁するでしょうね(笑)
うぉぉぉぉっ!我が娘よぉぉ――――ッ!!
って(*´д`)b

地上を確認出来ないガドットとしては、
シェリルの行方が心配で心配でたまらないみたいです。
でも……ハクとくっついちゃったら余計戻れないですよね(´・ω・`)

コメントは何処でも構いませんとも!
頂けるだけで有頂天ものなのですから!!
  • posted by 筱 
  • URL 
  • 2009.11/06 06:19分 
  • [Edit]

そのちー様へ 

いらっしゃいませ!

狂った鬼だなんて、恐ろしくて恐ろしくて……
シェリルも、性質の悪い奴に目を付けられたもんです……。

シェリルに彼氏12人!?
はうぁっ、やばいですよそのちー様ッ!!
そんな情報流すと、海の怒りが―――…あっ!!

…… …… ……

そのちー様?来年は海に行っちゃ駄目ですよ?
ガドットの裁きが下っちゃうかもしれません(´゚д゚)

ガドットはかなり後悔してますから、
シェリルが戻ってくれば、すんごい勢いで謝り倒すと思います(笑)
その後、無茶しちゃ駄目だろ?ってちっちゃく怒るんです。
……そんな気がします(*´д`)
  • posted by 筱 
  • URL 
  • 2009.11/06 06:24分 
  • [Edit]

鷹の爪痕様へ 

いらっしゃいませ!

右目の行方は次週明らかに☆
とか言ってみます。
そうなのですよ~、魔女は魔力を持つ品に目が無いのです!
シェリルには上質な魔力の匂いを感じ取ったのでしょうね(笑)

シェリルを無理やり人魚に戻したあかつきには、
ほぼ絶交されることは間違いないでしょうね(・ω・)
でも、戻さなかったら戻さなかったで、
ネスとかとくっついちゃったら余計戻らないだろうし……
というか、ガドットの人間嫌いが深刻化しそうです(笑)

鷹の爪痕様のおっしゃられる通り、連れ戻そうとしてもネスが、
「シェリルが嫌がってんだろ?触んなよ。」
とか言って守ってくれちゃうんだろうなぁと考えると、
シェリルは幸せ者だなと思いました(笑)

それにしても……
ハクは鷹の爪痕様の脳内から綺麗さっぱり消されつつありますね!!(・ω・;;)
やばい、やばいぞハク!頑張れ、ハクゥゥゥッ!!
  • posted by 筱 
  • URL 
  • 2009.11/06 06:31分 
  • [Edit]

 

1000HITにお祝いありがとうございます!
イラストも小説も筱さんには負けますよ…!!

リレー小説、頑張ってきます!
  • posted by 秋野白亜 
  • URL 
  • 2009.11/06 18:17分 
  • [Edit]

 

ガドット様がぁぁぁ……(涙)ガドット様の妻にそんなことがあっただなんて!
そしてすっごく娘想いなのに何だか可哀想で切ないです。はやく元気なシェリルちゃんの顔を見せてあげたいものですが……どうなるのでしょう。

一方地上では、シェリルちゃんとネスが何だか初々しいようなやりとりをしていて悶えさせて頂きました(爆)シェリルちゃんにドキドキするネスが、ぼそぼそとシェリルちゃんの可愛さを呟くネスがもう~っ!たまりません!最近、ネスが正ヒーローに見えてしょうがないです(爆)あれ、ハクは……?
ガドット様、シェリルちゃんが人間の男とこうしていることを知ったらどうするのでしょう?(爆)
  • posted by 神田夏美 
  • URL 
  • 2009.11/06 19:02分 
  • [Edit]

白亜様へ 

いらっしゃいませ!

うおぉぉ……ッとんでもないお話でございます(汗)
白亜様のあの、癒し系イラストには即行でノックダウンでしたよ(*・ω・*)

リレー小説、楽しみに待ってますね♪
  • posted by 筱 
  • URL 
  • 2009.11/06 19:18分 
  • [Edit]

神田様へ 

いらっしゃいませ!

ガドットの奥さんは人間に殺され、あまつさえ食べられるなんていう
悲惨な体験をしてしまった人です(´・ω・`)
まぁ、ガドットの怒りは当然ですよね(泣)
シェリルも同じ目にあってるのではと、気が気でないようです。

が、当の本人はネスの腕の中ですやすやです☆
ネスは、シェリルに言いたいんだけど恥ずかしくて言えなくて、
でもちょっと聞こえてたらいいなぁ……
みたいな淡い期待を持って呟いてると思います(笑)
が、全くもって聞こえてなかったようです(*´д`)b
報われないヒーローって大好き!!(ぉぃ!?

多分ネスが正ヒーローですよ^^(ぇ?!
もう、最近それでいいんじゃない?とか思ってきました(爆)
ハクの出番はまだまだだし……。
一話に沢山盛り込み過ぎちゃいましたよ(汗)

ガドット……シェリルが人間といちゃついてるのなんてみたら、
多分男の方を容赦なく殺しちゃうのでしょう(笑)
下賤な種族が……我が娘に触れるなぁぁぁぁぁぁっ!!
ってな感じで(*・ω・)b
  • posted by 筱 
  • URL 
  • 2009.11/06 19:26分 
  • [Edit]

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