冬鳥の詩

+ 夢と妄想で綴るお話 …

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+ 始めに +

 初めましての方は 初めまして。
 お久しぶりの方は お久しぶりです。

 長旅より無事帰還しました、管理人の - シノ - です。

 『心機一転』
 という言葉を軸にして今後とも頑張っていこうと思いますので、
 またお付き合いしてやって下さいッ!

 尚、この度、ブログ名を

  『 雛鳥の巣 』 から 『 冬鳥の詩 』 に変更しました。

 雛がちょっと成長した様です。
 管理人は全然成長してないんですけどねッ★

 まだまだ未熟者な管理人ですが、またお付き合い頂けたら嬉しく思います。


 この記事は大まかな目次ページにしていこうかと思いますので、
 小説には関係のないコメント等がございましたら、こちらにどうぞ _(._.)_



 + * + * + * + * + * + * +  御 品 書  + * + * + * + * + * + * +

  + Battle Mermaid +
   恋愛 + ファンタジー です。
   人魚姫のお話しが題材ですが、恐ろしく掛け離れております。



  + 魔王一ヶ条 +
   コメディ + ファンタジー です。
   魔界物語となっております。超絶不定期更新ですので、あしからず。



  + ある所に… +
   シリーズ物 です。


  + 超短小説 +
   分類不明 です。
   作者の気まぐれで綴られる、適当過ぎるお話。



  + 幸福ナ家庭 + 完 +
   現代物語 です。
   結構痛々しいシーンとか、血まみれのシーンとかありますので、苦手な方はご注意下さい。





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Battle Mermaid 17

 辺りは完全に沈んだ日のおかげで暗闇となり、昼間でも冷たい風は一層冷たく感じ、
 静かな森は不気味さを増す。
 そんな中、しばらく歩いていると、小さな木で出来たログハウスの様な物が視界に入った。
 シェリル、ハク、ネスの三人はやっと着いたとばかりにログハウスへ向かう。
 中に入ると、大きなベッドがひとつだけぽつんと置かれ、
 数本の溶け掛けたロウソクが床に散らばるだけの簡素な部屋だった。

 ネスとハクは荷物を置き、大きく伸びをする。

  「はぁ……疲れた。さっさと飯にしようぜ。」

 開口一番、そう言ったのはハクだった。
 慣れない山道で体力を消耗したハクとしては、
 早急にご飯を食べ、眠りたいという欲求を叶えようと、ネスを急かす。

  「ちょっとは待てってば……シェリル、どっか怪我とかしてねぇ?
  痛いとことか無いか?靴ずれとかは?」

 ごねるハクを置き、ネスはシェリルに問う。
 が、ネスが手を引いていたおかげで、コケそうになった時でも支えを得たシェリルは、
 怪我ひとつなく、良く眠っていた事も重なり、今もなお元気だった。

  「平気だよ。ネスのおかげでコケなかったし、元気ッ。」

 その言葉に安心したのか、ネスは柔らかい笑みをシェリルへ向け、よかったとだけ言い、
 次はハクの欲求を満足させてあげる為にご飯の準備に取り掛かる。
 シェリルは手伝えることがあるかと聞いたが、休んでいろと返され、
 ネスの後ろにぽつんと座っているだけであった。

 数分後、無事にご飯も完成し、三人は空腹を満たすべく食料を胃へとかき込む。
 そんな中、シェリルだけはキャベツを兎か何かの様にポリポリと食べていた。
 ハクがシェリルに聞く。

  「お前、そんなんで足りんのか?」

  「え……あ、はい。」

  「……ふぅん……変な奴。」

  「あぅ……」

 ハクに一瞥されたシェリルは軽くうつむき、ひたすらキャベツをかじった。
 そんなシェリルに、ネスは苦笑を浮かべ、小さな可愛らしいトマトを差し出す。

  「ほら、野菜なら大丈夫なんだろ?」

  「あ……ネス……ありがと。」

  「いえいえ、ベジタリアンだって事は分かってたからな。」

 にっかりと笑ったネスに、ハクが呆れたように言った。

  「いつもより荷物が重いと思ったら野菜か……。
  ったく……本当にこいつに甘いんだから……。」

  「別にいいだろ?腹は減ってはなんとやら~ってな。
  シェリルが肉や魚を食えないのは承知してんだから、野菜持ってくるしかねぇだろうが。」

  「腹減りゃあ人間何でも食うんだよ。甘やかすな。」

  「んじゃ、今後荷物は俺が持とう。それでいいよな?
  その代り、ちゃんとシェリル引きつれて山登りしろよ?怪我させたら許さねぇからな。」

  「なんでそうなるんだよ……っち……本当こいつは面倒くせぇな……。
  だから女は嫌いなんだ……弱いし、鬱陶しい……。」

 苛立ったハクの口から放たれた無意識の台詞は、見事にシェリルの心を射抜く。
 だが、シェリルはそれを悟られまいと懸命に言った。

  「ごめんね……?明日は一人でも歩くからッ。……本当に……ごめんなさい。」

 明るく言ったつもりだったのだが、傷付いた心では無理があり、部屋の空気が重くなる。
 それを感じ取ったシェリルはいてもたってもいられなくなり、すくりと立ち上がった。

  「あ、あの!ちょっと外の空気吸って来る!!」

 必死に笑顔を作り、止めるネスの言葉を聞かずに外へと出て行ってしまった。
 残されたハクとネスの間に、先程よりも暗く、そして殺気すらも帯びた空気が包み込む。
 ネスがハクに冷たい瞳を向けて言った。

  「お前、言い過ぎ。」

 その言葉に、ハクは深く溜息を吐く。

  「……すまねぇ……さっきのは無意識だった。」

  「無意識であったとしても、言っていい事と悪い事がある。
  シェリルはちゃんと歩いただろうが。女が山道歩くなんざ、疲労は相当なもんなんだぞ?
  ……それにな、お前に言ってなかったが、シェリルはどうも歩き方がおかしいんだ。」

 ネスは金色の瞳でハクを睨み付けて言う。
 そんなネスの言葉がよく解せず、ハクは首を傾げた。

  「……は?」

  「気付かなかったか?
  今でもそうだが、なんか歩くのに慣れてない感じがするんだ。
  やけにつまずくし、手を離せばふらふらと一直線に歩けやしない。
  歩くスピードだって普通の女で考えりゃ、かなり遅い。
  初めて会った時だって、産まれたての小鹿みたいな千鳥足してた。
  障害でもあるのかと思うくらい歩き方が下手だったんだよ。
  最初の頃に比べりゃ、だいぶマシになったが……
  もし何かあるなら、無理やり歩かせるべきじゃねぇんだ。」

  「……。」

  「それにシェリルは右目が無い。
  何をどうやってあぁなったのか知らねぇが……片目だと距離感も測れない。
  それにプラスであの足だ。……俺に言わせりゃ、よくついてきた方だと思うがな。」

 ご飯を食らいながら、ハクはネスの話に耳を傾ける。

  「ちょっと甘いくらいでいいんじゃねぇの?
  ……てか、甘くないとシェリルはこれから先、泣き言ひとつ言わず、
  必死についてくる気がする。……厳しいまま、無理させ過ぎると、壊れちまうよ。
  ま、お前が厳しくても俺が甘やかすけどな。」

 にひひと笑うネスを前に、夕食を食べ終えたハクは無言で箸を置いた。

  「…………外、行って来る。」

  「行ってらっしゃい。」

 特に止めることもせず、不機嫌に立ち上がるハクへ向けてやる気なく手を振る。
 無音の空間がネスを包み込んだ。

  (ハクも少しは素直になったもんだな。シェリルの効果か……。
  ……う~ん……何だ、このもやもやする気持ちは……。
  何か、納得いかねぇんだよなぁ……。)

 心にわだかまりを持ち続けるネスは、晴れない気持ちを胸に、
 ちびちびと夕食をお腹の中に片付けていった―――…


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愛しのサンタクロース + あとがき


 終わったぁぁぁぁっ!!

 クリスマス前だけどいいよね?!
 うん、いいと思うよ!!

 ハクとネスがえらく暴走しちゃって、シェリルちゃん大変そうだったけど、おつかれ!!
 ネス、色々な意味でおつかれ!!
 ぁ、テディ陛下は番外編でならいっぱい出していく予定だから、頑張ってね!!
 ってことで、ここからはキャラ達にお喋りして、まとめてもらいましょう★
 では、どうぞ!


 ハク(以下:ハ):「……どうぞって言われてもな。」

 ネス(以下:ネ):「うげぇ……あの男色陛下まだ出てくんの……?俺、あいつ嫌い。」

 ハ:「男色陛下?……あぁ、テディのことか。」

 ネ:「他に誰がいるんだよ……。」

 ハ:「……まぁ、あいつに好かれたら当分つき纏われるぞ。頑張って逃げろ。」

 ネ:「ってことは、お前もつき纏われた経験ありか?」

 ハ:「いや、イルイがつき纏われてた気がする。」

 ネ:「…………そうだっけ……?」

 ハ:「あぁ。……まぁ、テディがいる時は大体俺らの目から隠して逃げてたからな。」

 ネ:「……なるほど……。」

 シェリル(以下:シ):「はいはぁいっ!筱さんが男色はどうでもいいから終わらせろってさ。」

 ハ:「自分で終わらせろよ……。」

 ネ:「まぁまぁ、いいじゃねぇか。
   ん~っと……クリスマス編いかがでしたでしょーか。
   色々と問題ありな番外編でしたが、満足頂けたなら幸いです。」(カンペ、棒読み)

 ハ:「……もうちょい感情こめて言えよ……。」

 ネ:「文句言うならお前がやれ。」

 ハ:「完璧だぜ、ネス。」

 ネ:「だろ。」

 シ:「え……えっと……私が言うよ……。
   んと、初!番外編でしたが、楽しんでいただけましたでしょうか?
   また何かイベントごとがある時期に、こうやって皆で遊んでみたいと思います♪
   短編といえど長かったですが、お付き合い、ありがとうございました!」

 ネ:「シェリル完璧だな。」

 ハ:「……まぁまぁだな。」

 シ:「えへへ♪ご挨拶はここまでだね。
   ねね、ハク!ネス!お外雪いっぱいだよ!雪だるま作ろ~!かまくら作ろ~!」

 ハ:「ガキかよ……。」

 ネ:「んじゃ、シェリル。俺と二人で作るか♪」

 ハ:「……。」

 シ:「え……ハクは…………来てくれないの……?」

 ネ:「ハクはそんなガキみてぇな遊び出来な―――」

 ハ:「行く。」

 ネ:「…………分かり易い奴……。」

 ハ:「……シェリル、雪だるまの前に雪合戦するぞ。
   ネスに石入りの雪玉投げつけてやれ。」

 シ:「えっ?えっ!!?」

 ネ:「シェリルは俺と同じチームな♪」

 ハ:「俺とだ。」

 ネ:「早い者勝ち~♪」

 シ:「ふわっ?!ネ、ネス!!急に抱きかかえないでッ……」

 ネ:「あっはは、すまねぇな♪んじゃ、いっくぞ~!」

 ハ:「シェリルは俺のだろう。」

 ネ:「し~らねっ。」

 シ:「あっ……あぅ……?み、皆様!よいクリスマスを~!
   …………ネ、ネス、いい加減下ろしてくださぁぁあぁぁぃっ!!」


 ……ぐだぐだでしたが、これにてクリスマス編終了です!
 お付き合いいただき、ありがとうございました_(._.)_

愛しのサンタクロース 08

 騒音ともとれるほどの賑やかな夜が過ぎた翌日―――…

  「支給額アップ?!!」

 ネスとハクの驚きに満ちた声が早朝のギルドに響いた。
 アデットは二人の大声に右耳を塞いで言う。

  「朝っぱらから、うるせぇよ……皇帝から直々に手紙が回ってきたんだ。
  二枚あるんだが……これだ。」

 アデットは真っ白で端がレースになった綺麗な手紙を一枚、二人の前に差し出す。
 ハクが手紙を受け取り、開いた。そこには流れるような美しい字で綴られる文字が―――…


   ギルドの皆様こんにちわ。今回の費用削減の件、あれ無しね。
   財務担当の馬鹿達に躍らされちゃってさぁ……。
   『極悪非道の殺人集団に出す金はないでしょう?!』とか
   『奴らはこの金で好き放題遊び回ってるんですよ?!』とか言うから、信じちゃった。
   でも、君達はそうじゃないって事を学んだよ。
   ギルドの為に寒い中、頑張って笑顔振り撒く女の子や、
   その子を守る為なら命すら賭けられる男に心を打たれた。

   だから、お詫びも兼ねて今までより支給する額を増やそうと思う。
   あぁ、財務担当なら大丈夫だよ。俺がちゃんと口出し出来ないよう脅しとくからさ。
   ってことで、これからも宜しくねん♪


 その手紙の内容に、ハクとネスは口を揃えて言った。

  『軽ッ……』

 アデットは二人の合唱に苦笑を浮かべ、次は真っ黒な紙を取り出してネスに手渡す。
 ネスは不思議そうな顔をし、首を傾げた。

  「なんだ?これ。」

  「皇帝直々のお手紙二枚目。……お前宛てだ。」

 そう聞いた瞬間、ネスの背筋に悪寒が走る。
 即行で破って暖炉にでもくべてやりたかったが、
 皇帝の手紙ともなると読まないわけにもいかなかった。
 気の進まない表情で、ネスは手紙を開く。


   最愛の人、ネス=シアフォードへ―――…

   君の事、調べさせてもらったよ。何でも、ハク=リンウェイの友人らしいね?
   ハクとネス……あぁ……なんて素敵なコラボなんだ……。
   俺はそこに混ざりたいと切に思うよ。あ、大丈夫、安心して?
   俺は綺麗な男より、男らしい男の方が好きだから、ネス以外の男に浮気なんか―――


   グシャッ


 腕に鳥肌をめいいっぱい立てたネスは手紙を容赦なく握り潰した。

  「アデット……この手紙を燃やせ……灰も残すなよ。」

  「お……おう……」

 ネスは引き攣った表情で殺気を放ち、アデットに手紙を渡す。
 アデットは手紙をライターで少しずつ燃やしながら二人に言った。

  「それにしても、今年初めてギルドでクリスマスパーティーなんざしたが……
  お前ら、楽しんだか?まぁ、あんな賑やかだったのもお嬢ちゃんのおかげだがな。
  やっぱり、女の子が一人でもいると華があっていいな♪」

 そう言うアデットに、ハクとネスは昨日の出来事を思い出し、顔を赤らめる。

  (雰囲気とはいえ……シェリルにキスしちまいそうになったのは
  ……今考えると、かなり恥ずかしいよな……。)

 ネスは赤い顔を右手で覆い、恥ずかしそうに顔を伏せた。
 ハクもアデットから顔を逸らし頭をぼりぼりとかく。

  (……はぁ……流れとはいえ……すげぇ恥ずかしい事しちまったな……
  あいつ、傷ついたりしてなきゃいいんだが……。
  …………あんな可愛い姿見せられたら、我慢なんて出来ねぇっつの……。)

 二人の反応にアデットは少しだけ目を見開き、にやりと笑って見せた。

  「おやおやぁ?その初心な反応……お前ら、お嬢ちゃんとなんかあったな?」

  『!!』

 アデットのからかった様な口調にハクとネスは顔を真っ赤にして言う。

  『なっ……なんもねぇよ!!!』

 綺麗に重なった声に、アデットは苦笑を浮かべた。

  「……分かりやすい奴らだな……お前ら。」

 渇いた笑い声を漏らしたアデットに、ネスが赤くなった顔を手で扇ぎながら聞く。

  「うっせぇ……。ってか、そんなことより、シェリルは?まだ寝てんのか?」

 その言葉を聞いた瞬間、アデットの顔色が変わった。頬に冷や汗を流し、懸命に笑顔を作る。

  「あ……あぁ、寝てんじゃねぇの?……まぁ今日はさッ、お前ら二人で仕事行ってこいよ♪」

 あまりにも不自然なアデットの態度に、ハクは鋭い瞳を向けた。

  「……シェリルは?」

  「だっ……だから寝て……」

  「最後のチャンスだ、アデット。……シェリルは?」

 殺気を秘めた瞳は真剣そのもので、アデットは息を呑み、泣く泣く本当の事を話した。

  「か……風邪で……寝込んでる……」

  『……。』

 訪れる沈黙。アデットは嫌な気をひしひしと感じながら、引き攣り笑いを浮かべた。

  「ほ、ほら……寝てるだろ……?」

  「ハク……」

  「あぁ、ネス。どうやらこいつにはお仕置きが必要なようだ。」

  「え……?まっ……待て!!話せば分か―――…」

 言いかけた瞬間、アデットの言葉が途切れ、
 ギルドにはまるで獣の断末魔の様な叫び声が響いた。



 一方その頃、シェリルは―――…

  「ハクぅ……ネスぅ……だぁいすきぃ……むにゃむにゃ……」

 温かいベッドの中、氷枕に頭を預け、
 アデットの放つ悲鳴にも負けず、気持ち良さそうに眠っていた―――…



                                             - 完 -



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愛しのサンタクロース 07

 凍える寒さの気を紛らわそうと満天の星空を仰ぎ、両手に息を吹きかける。
 がさごそと隣で紙袋の音を鳴らすハクを耳にし、
 クッキーを食べてもらえている事に至福を覚えた。不意に―――…

  「くちゅんっ…………ぇ?」

 小さくくしゃみをした瞬間、シェリルの首に何やら温かい物が触れる。
 慌ててハクの方を見ると、シェリルとは視線を合わさず、ただ茶色のふかふかとした、
 とても温かいマフラーをシェリルの首へと巻いている姿が目に映った。

  「は……はく……?」

 突然の出来事に、シェリルは目を見開いてハクを見やる。

  「……戻って来た時には、メンバー集め……終わってたからな。
  渡さず捨ててもよかったが……まぁ、一応……。」

 マフラーを巻き終えそれだけ言うと、ふいっとそっぽを向き、再びクッキーをかじり始めた。
 シェリルの首元はみるみる間に温もりを帯びていく。

  「ハク……私の為に……?」

  「…………馬鹿かお前……。お前以外誰に買うんだよ、こんなの……。
  ……寒そうにしてたじゃねぇか……。」

 昼、くしゃみをし続けるシェリルを見、ハクはマフラーを買いに出掛けていたのだ。
 そんなハクの優しさに、シェリルは心が温かくなっていくのを感じ取る事が出来た。
 その喜びが思わず口から漏れる。

  「ど、どうしよう……凄く嬉しいッ……」

  「……そりゃ……よかったな……」

 相変わらずのハクの声。だが、今は何処か恥ずかしそうでもあった。
 シェリルはハクに貰ったマフラーに嬉しそうに顔を埋める。
 そんなシェリルを視界に入れ、ハクはつっけんどんに聞いた。

  「お前、いつまでその服着てんの?」

  「え……あ、これはアデットさんが今日一日着ててくれって。」

  「……見てるこっちが寒いんだが。」

  「あっ!ご、ごめんッ!!んじゃ、私戻るよ……ッ」

 シェリルは慌てて立ち上がり、その場を去ろうとする。
 だが―――…

  「きゃっ!?」

 右手を思い切り引かれ、シェリルはハクの太ももへと吸い込まれて行った。
 ハクはシェリルをしっかりと抱きとめて言う。

  「ここにいるって言ったのはお前だろう?」

  「へっ……!?えっ……?!」

  「……ここならあったけぇだろ。」

 そう言いながら、シェリルを優しく抱きしめるハク。
 シェリルは弾け飛びそうな心臓を必死で押さえていた。

  「あのっ……す、凄く……恥ずかしいです……。」

 顔を真っ赤にしながら言うシェリルに、ハクは意地悪そうな笑みを浮かべた。

  「なんなら、もっと恥ずかしい事でもしてやろうか?」

  「ほぇ……?」

 シェリルが首を傾げたその瞬間―――…

  「!!?」

 シェリルの唇に温かい物が触れた。
 大きく開いた目の前には、ハクの美麗な顔がある。優しい口付けだった。
 シェリルの唇から自分の唇を離し、ハクはシェリルの頬に右手を当てて言う。

  「……そんな格好してるお前が悪い。」

  「ぁ、あう……?はわゎゎっ……」

  「危機感が無さ過ぎる。……俺だって男なんだからな……?分かってんのか?」

  「は……はぃ……」

 顔を真っ赤にするシェリルは、恥ずかしさのあまりハクの腕から逃れようと力を込める。
 だが、シェリルの力ではハクに敵うわけもなく、びくとも動けなかった。
 ハクは意地悪な笑みを浮かべ、シェリルに言う。

  「何逃げようとしてんだよ。離してやるわけねぇだろ。」

  「は……恥ずかしいです……」

  「んなの知るか。お前に拒否権はない。……俺のしたいようにする。」

  「ふぇッ―――…んッ」

 再び降り注ぐハクの唇に、シェリルは思わず目を瞑った。
 二度、三度と口付けを交わし、ハクはシェリルの耳元で呟く。

  「…………クッキー美味かった……その……ありがとう……。」

 不器用な礼の言葉に、シェリルの心臓はさらに高鳴り、真っ赤な顔は限界寸前だった。
 恥ずかしそうに顔を両手で隠し、その礼に答える。

  「は、は……ぃ……って、ハク……いつもとなんか……違う……どうしたの……?」

  「…………サンタクロースがこんなくそ寒い中プレゼント持って来たんだ。
  ……礼は必要だろうが。」

 真っ赤な顔を隠すシェリルの両手を退かし、硬直するシェリルにハクは微笑を向ける。
 そしてもう一度、シェリルへ口付けしようとした瞬間、ハクの動きが止まった。
 今までの優しげな顔から一転、不機嫌そうな顔を全面に押し出し、小さく舌打ちをする。

  「ちっ……邪魔しやがって……」

  「え……?」

 ハクはゆっくりとシェリルを離し、煉瓦へ座らせる。その瞬間、聞き慣れた声が聞こえた。

  「おぉ、お嬢ちゃん!ここだったか!!」

 アデットが笑顔を浮かべ二人に駆け寄る。

  「お嬢ちゃん、皆がお嬢ちゃんは何処だって騒ぎ立てやがるんだ。
  戻ってやってくんねぇかなぁ……?」

 申し訳なさそうなアデットにシェリルはハクと一緒にいたい気持ちを抑えて言う。

  「分かりました。……ハクは……?」

  「……。」

 シェリルはちらりとハクを視界に入れて言う。が、返答は得られなかった。
 シェリルは苦笑を浮かべる。

  「あ……五月蝿いのが駄目だったよね。……ごめん。」

 先程の事が夢であったのではと勘違いするほどのハクの態度の変わり様に、
 シェリルはどこと無く寂しげな笑いを浮かべていた。
 そんなシェリルを見、ハクはゆっくり立ち上がる。

  「……寒くなった。入る。」

  「!」

 ぶっきらぼうにそう言うと、ハクはシェリルを置き、さっさとギルドに戻って行った。
 思わぬ優しさに、シェリルの鼓動はおさまる事を知らず、激しく高鳴るばかりである。

  「なんだ、あいつ……顔真っ赤だったぞ?……何かあったのか?」

  「い……いえ……」

 ハクも恥ずかしかったのだと知ると、シェリルは幸福な気持ちに包まれていくのを感じた。

  (ハク……大好き……ッ)

 貰ったマフラーを嬉しそうに掴み、シェリルはアデット共にギルドへと戻って行った―――…


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Battle Mermaid 16

 ネスとハクは荒れ果てた山道をひたすらに登っていた。
 荷物を持つハクはネスの後ろを歩く。
 ネスはシェリルを抱き、軽々と山道を越えて行った。
 そんな様子に、ハクが呆れた様に言う。

  「……お前、本当に足腰つえぇんだな……こんな歩きにくい山道をよくもまぁ軽々と……」

  「あはは、元は山育ちだからな。こういう地形には慣れてる。
  それに、荷物と違ってシェリルは軽いからな。」

 にんまりと笑って意地悪に言うネスに、ハクは不服そうな声を出した。

  「なら、少しくらいこっちの荷物を持ってくれる程度の優しさは見せたらどうだ?」

  「嫌なこった。あぁ……なんならお前がシェリル持つか?」

  「はぁ?何で俺が持たなきゃなんねぇんだよ。」

  「あっそ。ならいいや。近道を選んだのが俺だったから、
  歩きにくくて重たい物持つのもそろそろきついんじゃねぇかと思って
  替わってやろうとしてた俺はお節介だったってわけだな。」

  「……。」

 ネスの説明的な口調に、ハクの言葉が止まる。
 ネスは不機嫌そうなハクの顔を確認し、にやりと笑って最後のチャンスを与えた。

  「どうする?」

  「………………替わる……。」

 少し間を置き、苦々しい顔で一言だけ返した。
 ネスは勝ったとばかりの表情を浮かべ、荷物とシェリルを交換する。
 交換し終えたネスはハクに笑顔で言った。

  「シェリルが起きたら、また荷物持ちな。」

  「マジかよ……。」

 荷物と違い、軽く、持ちやすいシェリルをハクは軽々と抱きかかえる。
 余程荷物持ちが嫌だったのか、シェリル起こさない様に努めた。
 ネスは気持ち良さそうに眠るシェリルに微笑を向ける。

  (起きた時は、俺よりハクの腕の中の方がいいだろうしな。
  ……はぁ、俺ってばお人よし……。)

 自分で思った言葉に自嘲の笑みを浮かべ、ネスはハクの持っていた荷物を軽々と背負う。

  (まぁ、いっか。って、荷物重ッ!!!)

 軽々抱えてはみたが、実際の重さに少しだけげんなりとした表情を浮かべ、
 小さく溜息を吐いて言った。

  「行くぞ?」

  「あぁ。」

 ハクはネスの言葉に頷き、シェリルを起こさない様、ゆっくりと険しい山道を登り始めた。




 日も暮れ、徐々に闇が迫る頃、シェリルは寒さと振動で目を覚ました。

  「ん……」

 ぼんやりとする目を擦り、視界をクリアにしていく。
 一番始めに目に入ったのは、愛しい人の焦った表情だった。

  「ハ…………ク……?」

 小さな声を発したシェリルに、ハクも小さな声で返す。

  「起きるな。寝てろ。」

  「え……?」

  「荷物持ちは嫌なんだよ。いいから黙って寝たふりしてろ。」

 わけのわからないハクの指示に従い、シェリルはゆっくりと目を閉じる。
 と、その時、前方を歩いていたネスが振り返り、ハクに言った。

  「どうした?何か言ったか?」

 その言葉に、ハクは全力で首を左右に振る。

  「何でもねぇよ。ほら、行くぞ。もうすぐ日もくれる……腹減って仕方ねぇんだ。」

  「……はぃはぃ。」

 つっけんどんに言うハクに背を向け、ネスは心の中で楽しそうに笑った。

  (分かりやす過ぎだ馬鹿……。シェリル起きたのもろばれだっつの。
  ……そんなに荷物持ち嫌だったのか?)

 笑いを堪え様にも、ハクの態度が可笑しく、小さく肩が震える。
 それに気付いたハクは、訝しげな表情を作った。

  「何笑ってんだよ……。」

  「いやぁ?別にぃ?ただ、シェリルにおはようって言いたいなと思っただけだよ。」

  「!……ちっ……気付いてやがったか……。」

 ネスとハクの会話の意味が分からず、シェリルはハクの言い付けを守り、
 ひたすら目をつむっていた。ハクはそんなシェリルに言う。

  「もう目ぇ開けていいぞ。ほら、お前も歩け。」

  「あっ、はい!」

 シェリルは再び目を開き、ハクの腕から降りる。
 その刹那、シェリルの体がふわりと浮き、ネスの腕の中に収まった。

  「ふぇ……?」

 予期せぬ出来事に、シェリルぽかんと口を開ける。
 確かに大地へ着いたはずの足は、今は宙に浮いていた。

  「ほら、荷物。」

 シェリルをしっかりと抱え、ネスは持っていた荷物をハクへと押し付ける。
 ハクは納得がいかないのか、ネスに言った。

  「お前も持てよ。そいつ、起きたんだから歩かせりゃいいだろ?」

 その言葉に、ネスは深い溜息を吐く。

  「お前……そんなんじゃ、女にモテないぞ……?」

  「別にモテたいとも思わねぇけど……。
  大体、そいつに荷物持たせろだなんて言ってねぇんだ。自分で歩けって―――…」

  「こんな山道歩かせられるかよ。日も暮れて視界も悪い。
  下手したら足滑らせて落ちちまうかもしれねぇだろ?」

  「お前はその女を甘やかし過ぎなんだよ。」

  「お前はシェリルに厳し過ぎるんだ。」

  「あ……あの……?」

 自分が原因で険悪な雰囲気になっている事を悟ったシェリルは、
 この状況を打開すべく、言葉を紡ぐ。

  「私、歩くよ。荷物も持つから、喧嘩しないで……?
  ハクとネスがいっぱい寝させてくれたから、凄く元気なのッ!」

 満面の笑みを二人に向け、進んでネスの腕から降りる。
 そして、ハクに差し出したはずの荷物を取ろうとシェリルが手を伸ばす。
 が、その手はハクとネスに遮られた。

  「ふぇ……?」

  「シェリルが荷物なんて持つ必要ねぇよ。
  結構重たいし、男が二人もいて、女に荷物持たせるなんざ、邪道だ。
  シェリルは怪我しない様、注意して歩いてくれりゃいいさ。」

  「どうしても持ちてぇなら止めやしねぇが、無駄に体力減らされて翌朝寝坊は困る。
  大体、てめぇが荷物なんざ持ったら、歩行スピードが遅くなるだろうが。
  ただでさえ遅そうなんだから、気合い入れて歩け。」

  「は、はい……。」

 優しい言葉と、優しいのか侮辱されているのかよく分からない言葉に、
 シェリルはたじたじになりながらもコクリと頷く。
 ハクとネスは荷物を半分ずつ持ち、ネスはシェリルの手を取り険しい山道を登って行った―――…


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愛しのサンタクロース 06

 シェリルはアデットと共にカウンターに入り、冷蔵庫から綺麗にラッピングされた紙袋を取り出す。
 アデットは嬉しそうなシェリルの顔に思わず頬を緩ませ、楽しそうに言った。

  「ほら、行って来い。」

 そう言ってシェリルの背を押そうとした瞬間、シェリルは振り返り、アデットに笑顔で紙袋を差し出す。
 きょとんとしているアデットに頬を赤らめて言った。

  「いつも美味しいお料理、ありがとうございます。
  今日だって忙しかったのに、これの作り方教えて下さって……本当に感謝しています。
  メリークリスマス!アデットさんッ。」

 少し恥ずかしかったのか、シェリルは呆けるアデットの手に無理やり紙袋を持たせ、
 赤い顔のままネスの下へと走って行った。
 アデットは手渡された紙袋を開けながら、嬉しそうな笑顔を浮かべる。

  「まさか俺の分まであるとは……。ははっ……嬉し過ぎだろ……これは。」

 アデットの瞳には、沢山入った色とりどりの綺麗な手作りクッキーが映っていた―――…



 シェリルはスカートを揺らしながらネスの下へと戻る。
 戻ってくるシェリルに気付いたネスは、小さく溜息を吐きながら言った。

  「だからシェリル……走るな。……その……見えるから……。」

 恥ずかしそうにそう言うものの、シェリルは全く聞こえていないのか満面の笑顔を振りまく。
 その笑顔に気の抜けたネスは、苦笑しながら言った。

  「さっきハクが帰って来たぞ。
  ここの空気が苦手みてぇで外に出ちまったが……多分、路地にいるんじゃねぇか?」

  「あ、そうなんだ。んじゃ後で行かなきゃっ。
  でも、その前に~……はい、ネス!いつも守ってくれてありがとう!メリークリスマス♪」

 シェリルは紙袋をネスに手渡した。
 訳の分からないネスは首を傾げながらそれを受け取り、
 次の瞬間、今日がクリスマスだということを思い出し、焦って言う。

  「えっ……あっ……クリスマスプレゼント……か……?」

  「うんっ!初めて挑戦してみたのっ!よければ食べてね。」

 ニッコリと笑ったシェリルを前に、
 ネスは自分がクリスマスプレゼントの存在を忘れていた事に気付いた。
 申し訳なさそうな表情を作り、シェリルの頭を撫でて言う。

  「わりぃ……俺、何も用意してねぇや……。」

  「ううん!こうやって、ネスと一緒にクリスマス過ごせただけで嬉しいよ。
  …………来年も、再来年も、ずっとずっと一緒にいてね。」

  「ッ……」

 頬を赤らめ、無邪気な笑顔で幸せそうに言うシェリルを見、ネスの顔が一気に赤くなる。
 えへへと笑い、シェリルは恥ずかしそうにネスの横をすり抜け、外へと出て行った。
 ネスはシェリルの幸せそうな笑顔を思い出し、騒がしい店内でぽつりと呟く。

  「……やっぱキスしときゃよかった……。」

 真っ赤に染まった顔を伏せて言った言葉は誰の耳にも届かなかった―――…



 外に出ると、雪は一層激しく振っていた。
 空を見上げれば満天の星に、大きな白い月。何処となく幻想的な雰囲気だった。
 シェリルは紙袋を大切そうに抱え、ギルドと隣家の隙間に入り込む。
 しばらく進むと―――…

  「ハク!」

 目的の人物を見つけた。
 ハクは煉瓦の上に座り、ぼんやりと空を仰いでいる。
 シェリルの声に反応し、視線だけ向けた。

  「なんだ?」

 相変わらずの感情の読み取れない声。
 シェリルはそれでもハクの傍により、紙袋を手渡した。

  「いつも迷惑かけてごめんなさい。いつも守ってくれてありがとう。
  メリークリスマス!ハクッ!」

 満面の笑顔を見せると、ハクは面倒臭そうな顔をしながらも紙袋を受け取った。
 礼ひとつ言わず、小さな音を立てて紙袋を開ける。
 様々な形をした、色とりどりのクッキーがハクの視界に飛び込んできた。

  「……。」

 何も言わないハクに、少しだけ不安になったシェリルは慌てて言う。

  「あ……甘い物苦手だったかな……?あのっ……不味かったら食べなくていいから!
  捨ててくれても、全然構わないからッ!!」

 そう言うものの、ハクはシェリルの声など全く聞こえていないかの様に、反応ひとつ返さない。
 しばらくクッキーを見つめたハクは、紙袋の中に右手を突っ込み、市松模様のクッキーを取った。
 そのクッキーは一口でハクの口の中へ収まる。
 ぽりぽりとクッキーを砕く音が辺りに響いていた。

  「……あ……の……美味しい……?」

 不安そうな顔で言うと、ハクは視界にシェリルを入れ、座れと指示を出す。
 シェリルはその指示に従い、雪の積もる煉瓦の上へ腰をかけた。

  「ほら。」

 そう言うと、ハクは一枚シェリルにクッキーを手渡した。
 シェリルはおずおずとそれを受け取り、ハクを見やる。
 ハクは紙袋からもう一枚手に取り、口へと運んだ。

  「……?」

 ハクの行動の意味が分からないシェリルは小さく首を傾げる。
 そんなシェリルに、ハクは面倒臭そうに言った。

  「……自分で食えば美味いか不味いか分かんだろ。」

 つっけんどんに言われた言葉に、シェリルは困惑気味に視界を泳がせ、
 顔をうつ伏せて言った。

  「あ……で、でも、ハクの口から聞きたい……かな……?」

 うつ伏せた顔を真っ赤にして言うシェリルに、ハクは小さく溜息を吐き、
 クッキーの握られているシェリルの右手を掴む。
 突然掴まれた腕にきょとんとするシェリルを置き、ハクはそのクッキーへ口を付けた。

  「ッ!」

 一瞬、自分の指にハクの唇が触れ、シェリルは驚きのあまり固まる。
 だがそれに気付いていないハクはシェリルの顔間近で、相変わらずの表情で言った。

  「不味かったら、俺は遠慮なく捨ててる。こんなに食わねぇよ。」

  「あ……。」

 あまりの近い顔にシェリルはハクを直視する事が出来ず、再び恥ずかしそうに顔を伏せる。
 しばらく微妙な沈黙が続き、ハクのクッキーを食べる音だけが辺りに響いた。
 その間も、サンタクロースの服を着たままのシェリルの体は、どんどんと冷えていく。

  「……くしゅんっ!」

 寒くなってきたシェリルは自分の右肩を擦り、温もりを得る。
 そんな様子に、ハクは感情のない声で突き放すように言った。

  「寒いなら戻れ。」

  「……ハクは戻る……?」

  「あの騒々しい中に戻るのはごめんだ。……戻るならお前だけで戻れ。」

  「……なら……ここにいる……。」

  「……。」

 突き離された言葉をもろともせず、寒さに耐え、シェリルはハクの傍に座り続けた。


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Battle Mermaid 15

 普段は賑やかな皇国『リムドア』ギルド。
 だが、今、この瞬間は虫の羽音すら鮮明に聞こえきそうな程に静かだった。
 少し強めに吹いた風がカタカタと窓ガラスを揺らす。そんな中、
 冒険者達の視線はしっかりとアデットを捉えていた。
 アデットも冒険者達を見回し、緊迫した声で言う。

  「魔国『ユグドラ』ギルドに、最強と呼ばれるアンデッドが出現した。
  ……あの様子じゃ恐らく、最悪の状態だろう……」

 店内が少しだけざわつく。『最悪の状態』がなんなのか皆理解しているようであった。
 アデットは言葉を交わし合う冒険者達の喋り声など関係なく、話し続ける。

  「……最強と呼ばれるアンデッドは二体いる。片方は魔国を。
  そしてもう片方は、皇国を目指してるそうだ。」

 ざわつく範囲が次第に広まる。アデットは少しだけ悲しそうな表情を浮かべ、震える声で言った。

  「最強のアンデッドの一人……魔国のギルドを潰したのは……ティスタ……。
  ティスタ=シルベルトだ……。」

 その名を聞いた瞬間、店内から音が消えた。そんな中で、アデットの声だけが空気中を舞う。

  「で……今こっちに向かっているのが………………イルイ……イルイ=リザウェル……。」

 それを聞いて、誰も動かなかった。いや、動けなかった。
 敵となった人物の名前を聞き、あまりの恐怖に体がすくみ上がる。

  「イルイって……ハクとネスとつるんでた……?」

 光り輝く銀色の鎧を着た冒険者がアデットに問う。

  「あぁ、あの『イルイ』だ。」

 アデットがしっかりと頷くと、酒場が一気に騒がしくなる。
 皆、恐怖を少しでも紛らわそうと、仲間と会話を交わす。
 その光景に、アデットは深い溜息を吐いた。

  (……やっぱこうなるよな……。
  この国の英雄だったイルイが……自分達を殺しに来るんだもんな……。
  こんな状態で―――…いや、万全の状態だって勝てる気がしねぇよ……。
  戦いのスペシャリスト相手じゃ、足掻いたって無駄だな……国より、命の方が大切だ。)

 アデットは数回深く呼吸し、騒ぐ男達に言う。

  「聞け!!頼みの綱であるハクとネスは辺境地の仕事でしばらく帰れねぇ!
  てめぇらは……さっさと逃げろ。死んじまったら何の意味もねぇんだ……。逃げろ。
  ギルドに来るな。イルイ相手じゃ、てめぇらが何人いたって敵いやしねぇ……。
  一刻も早く逃げるんだ。」

 言い終えると、自分の仕事は済んだとばかりにアデットは椅子に座り煙草に火を点ける。
 そんなアデットに、一人の男が聞いた。

  「あんたは……逃げないのか……?」

  「ん……まぁな。ここは俺の家みてぇなもんだし。
  ……それに……あいつが……イルイが帰って来たら、
  『おかえり』くらいは言ってやりてぇんだよ。……その後なら、死んでも構わねぇや。」

 切なく笑ったアデットの顔が、冒険者達の心を熱くさせた。
 皆逃げ出したくなる心を抑え、出る気はないとばかりに椅子に座る。
 そんな冒険者達に、アデットは苦笑を浮かべた。

  「馬鹿……無理すんな。お前ら……ほんとに死んじまうぜ?」

 アデットの諭す様な声に、冒険者達は声を上げる。

  「イルイになんざ、負けてたまるか!!」

  「ギルドは俺らの家でもあるんだぜ!アデットッ!!」

  「勝てなかったとしても……ハクとネスが帰ってくるまで持ちこたえてやるさ!!」

  「そうそう!それに、もう冬が近い……もしかしたら、レグも帰って来るかもしんねぇ!!」

 一人の男が発した『レグ』と言う言葉に、冒険者達がこぞって反応を返す。

  「そうだ……そろそろレグが……」

  「あいつが帰って来てくれりゃあ、余裕でハク達の帰りまで持つよな?!」

  「むしろ、倒せちまうんじゃね?!!」

 嬉々とした声を制す様に、アデットは厳しい声色で言い放つ。

  「レグは……確かにそろそろ帰って来る頃だろうが、当てにはならない。
  自由気まま過ぎる冒険者に期待するな。
  イルイが来た時にレグがいる可能性なんざ、0.1%くらいの確率でしかねぇんだ。
  ……お前らだって分かってんだろ?現実から逃げるな。
  ……逃げるなら、ギルドからにしてくれ。」

 アデットの一喝に、店内は先程の騒ぎが嘘かと思う程に静まった。
 皆、どうしようもない状況にうつむく。
 続く沈黙の中、『逃げろ』の言葉に従い、数人の冒険者が恐怖に負け、
 アデットに頭を下げながらギルドを出て行った。アデットは店内をぐるりと見渡す。
 まだ何人もの冒険者が椅子にへばり付いていた。

  (意地張るな……お前らも逃げろ。
  本当に死ぬんだ……お前らは若い……まだ死んでいい歳じゃねぇんだよ。
  逃げろ……頼むから……。)

 そう思った矢先、バンッとテーブルを思い切り叩き、大剣を背負う大男が立ち上がった。
 過去、ネスと一戦交えて無惨な敗北を経験させられた男、ディードリッヒだった。
 ディードリッヒは強く拳を握り、闘気に満ちた表情を浮かべて大声で言い放った。

  「イルイがなんだよ!!俺は……俺は勝つんだ!!
  ハクだって、ネスだって、イルイだって、ティスタだって、ぜってぇ俺が倒してやるっ!!
  アデットが何と言おうが構わねぇ!!!俺が倒すんだ!!」

  「……ディードリッヒ……」

 やる気を溢れさせ、ディードリッヒはニヤリと笑う。
 勝てる根拠もないのだが、やけに自信満々だった。
 そして、その叫びに呼応するかの様に、他の冒険者達も立ち上がり大声で叫んだ。

  「そうだ!俺も手ぇ貸すぜ、ディード!!」

  「おう!!」

  「しゃぁねぇな!俺も手伝ってやんよ!」

  「っち……お前が行くなら、俺も行くぜ。」

  「そうだな……何もしねぇより、やっぱ戦って死ぬ方がいいぜ。」

 次々と立ち上がり、ディードリッヒの周りに集まって行く冒険者達を見、
 アデットは深く溜息を吐いた。

  (……ディードリッヒの馬鹿……。なに意思統合させてんだよ……。
  さっさと逃げろっつったのに、皆巻き込んで意気込むな阿呆、馬鹿、間抜け。
  ……でもまぁ……覚悟が決まったなら、俺はそいつらの世話をするだけか……。
  イルイ……お前が……この国を、俺らを、忘れていないことを願ってるぜ。)

 恐怖に打ち勝つ冒険者達の勢い付いた声をよそに、
 アデットは窓から見える雲ひとつない空を見上げる。
 アデットの不安や、悲しみなど関係ないとばかりに晴れ渡った空は、
 不穏な空気など一切かもし出す事無く、綺麗だった―――…


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愛しのサンタクロース 05

 ギルドに入ると、人、人、人で溢れ返っていた。
 アデットは昼から準備していた料理を表に出し、男達の腹を満たしていく。
 忙しそうに動き回る中、一瞬だけシェリルを視界に入れたかと思うと、
 アデットは満面の笑みでシェリルに聞いた。

  「50人、集まったか!?」

 その言葉に、シェリルも満面の笑みと、50人分の受付用紙を見せ大きく頷いた。
 アデットはその喜ばしい返答に、思い切りシェリルを抱き締める。

  「お嬢ちゃん!!お前最高だッ!!よくやってくれた!!
  さぁ、風呂に入ってこい!あ……悪いが、今日一日中それ着ててくんねぇかな……?
  他の奴らがお嬢ちゃんのサンタクロース姿を楽しみに待ってやがんだよ……。」

  「あ、はい。分かりました。」

 シェリルがにこやかな顔で頷く。が、その後ろでネスはすこぶる不機嫌そうな顔で立っていた。
 そんなネスに気付いたアデットは、慌ててシェリルに風呂場へ行くよう促す。
 シェリルは大きく頷き、受付用紙をカウンターに置いて、
 騒ぎたてる男達の中を掻い潜って風呂場へと向かった。
 アデットは少し休憩とばかりに壁に寄りかかり、ネスに聞く。

  「なぁに不機嫌そうな面してんだよ。せっかく50人集まったんだ。
  こんないい日にそんな面してちゃいけねぇぞ?」

 アデットの言葉に、ネスは訝しげな顔を浮かべ小さく舌打ちをして言った。

  「不機嫌な面になるほど嫌な事が色々とあってな。
  ってか、シェリルをあの格好のままいさせるって、何考えてんだよ。」

  「なんだよ~?可愛いじゃねぇか。お前、コスプレに興味ねぇの?」

  「……可愛いとは思うが、露出度高過ぎだ。
  さっむい中、あんな格好でずーっと頑張ってたんだぞ?風邪でも引いたらどうすんだよ。」

  「それは悪かったってば……。でもあれしかなかったんだ。」

 溜息交じりに言うアデットに、ネスは不機嫌そうな顔を変えず、深い溜息を吐く。

  「最後の最後には男色野郎に絡まれるし……最悪だぞ。」

  「だ……だんしょく……?」

 ネスの言葉に目を見開いたアデット。
 ネスは先程のテディと名乗った男を思い出し、苛立った様子でアデットに話した。

  「あぁ、50人目の客に男色の気があったんだよ。
  俺に詰め寄って顔近付けてきやがって……あああぁぁぁっ!!気色わりぃ!!

 思い出した先程の光景に思わず声を荒げたネスを、アデットは背を擦って落ち着かせる。

  「お、おい……大丈夫か?……その、男色野郎の名前はなんて言うんだ?」

  「ん……?あー……えーっと確か……テディエトール……だったかな?」

 その名前を聞いた瞬間、アデットが固まった。
 口をぱくぱくと開き、何か必死に伝えようとネスを見やる。
 ネスは首を傾げ、眉をひそめる。

  「なんだよ?」

  「テディエトール……?ほ……本当か……?」

  「こんなので嘘吐くかよ。知ってんのか?男色野郎のこと。」

 アデットはネスの顔をしっかりと見つめ、ぱくぱくと口を開いて言った。

  「テディエトール……本名はテディエトール=ルオン=リムリディア……。
  リムリディア大陸を統べる……この皇国の……皇帝の名だ。」

  「………………は?」

 ネスはアデットの顔を見て焦る。
 『皇帝』という名には不釣り合いなほど若かったことを思い出し、アデットに言った。

  「まっ……どう見ても、25くらいだったぞ!?」

  「以前の皇帝は怖くなって逃げたんだよ。
  政治、アンデッドドラゴン、魔国……息子に全部押し付けてな。
  だから、今は息子が皇帝なんだ。」

  「マジかよ…………ってか、皇帝が男色って問題があるんじゃねぇの……?」

  「まぁ……。でも、何で皇帝がギルドに……?しかし、ネスを気に入るとはな……。
  もしかしたら、次からはお前の色仕掛けで―――…」

  「アデット……本気で殺すぞ……?」

 軽く殺気を放ちながら言うネスに、本気を感じ取ったアデットはそれ以降口をつぐんだ。


 しばらくすると、先ほどと同じミニスカートに胸元の大きく開いたサンタ衣装を着、
 小走りでネスの下へと寄ってくる。ミニスカートが揺れ危うくパンツが見えそうになる。
 ネスは自分の下を走ってきたシェリルを男達の目から隠した。

  「シェリル、走るな。スカートが……」

  「えへへ、あったかくなったよ♪ぽかぽか!」

 ネスの言葉が聞こえていないのか、満面の笑みを浮かべ自分の手をネスの頬に当てる。
 シェリルの温もった体温がネスの頬へ伝った。ネスは少しだけ顔を赤くして言う。

  「あ……あぁ……よかった……。ほ、ほら、シェリルもパーティー楽しめ。
  好きなの食って来いよ。」

 優しい表情を浮かべたネスの顔に、何かを思い出したシェリルはアデットの方を向いた。

  「アデットさんっ!アレ!!」

  「あぁ、そうだな。もういいだろう。ほら、おいで。」

 二人会話の意味が分からず、ネスは小さく首を傾げた。
 シェリルは元気な声で嬉しそうに言う。

  「ネス!ちょっとここで待っててね♪」

  「お、おう?」

 シェリルの満面の笑みに負け、
 ネスは壁に寄りかかりながらアデットについていくシェリルを目で追った。


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Battle Mermaid 14

  『応答しろ!メディッ!!
  生きてるか?!くそっ……メディッ!メディアーザ!!』

 受話器からアデットが放つ必死な声が聞こえる。
 だが、その声に答えられるほどの余裕などメディアーザにあるわけもなく、
 ただ眼下に広がる血塗れの光景に絶句していた。

 ―――…血に塗れているのはフィオラだけではなかったのだ。

  「フィオラ……シーファ……アンナ……ユアン……マヒロ……
  み、んな……が……うそ……なんで……?」

 視点を定めることが出来ず、メディアーザは呆然とし、
 血塗れになっている仲間の名前をうわごとの様に呟く。
 立っているのは、メディアーザただ一人だった。

  「なんで?って、何が?あぁ、竜巻からどうやって逃げ出したかってこと?」

 頷きもしていないのに、ティスタは楽しそうに語る。

  「簡単だよ。短刀をフィオラに投げ付けただけ。
  彼女、怒りに狂ってると冷静さをかき、我を失うらしいね。
  魔法の使い方も荒くなるらしいじゃん。
  ……フィオラが一番怖かったけど、最初に仲間殺して正解だったかな?
  ふふ、簡単だったな♪」

  「あ……貴方、何でそのことを……?」

  「……さぁ?なんでだろ~ね♪」

 この血に塗れた場に相応しくない可愛らしい笑顔を浮かべるティスタを睨み付け、
 メディアーザは凜とした声で言った。

  「貴方なんかにギルドを潰させやしないわ……ッ他にも魔国の冒険者はいる!
  それに、皇国ギルドだって動き出すんだから!!」

 必死ともとれる虚勢に、ティスタは楽しそうに言い返す。

  「あはは♪無理だよ。皇国ギルドも潰れちゃうんだもん。
  皇帝が魔国の為に動くわけないし……ざぁんねぇんでぇしたッ♪
  さて、そろそろ死のうか、お姉さん。
  僕、お腹空いてきちゃったから、ご飯食べに行きたいんだ。」

  「……ッ」

  『メディ!おいッ、メディ!!』

 必死に叫ぶアデットの声に、ティスタはにんまりと笑顔を浮かべながら言った。

  「お姉さん、アデットさんに一言言うくらいなら待ってあげるよ?
  アデットさんにはお世話になったからね。」

 メディアーザはティスタから目を逸らし、アデットの声が聞こえる受話器へ目をやる。
 そしてゆっくりと、声を震わせながら言葉を紡いだ。

  「アデットさん……」

  『メディ!無事だったか……ビビらせんなよ……。
  大丈夫か?ティスタはどうだ?逃げたのか?』

 矢継ぎ早に問うアデットの言葉を全て無視し、メディアーザは涙を零しながら言う。

  「もう……駄目みたい……。
  さようなら……アデットさん……皇国は……無事でありますように……。」

  『メディ―――…?』

   ザンッ

 血が舞う。
 まるで花びらの様に。

 生暖かい熱を帯びた血を全身に浴びながら、ティスタは短刀を腰になおした。
 顔にこびりついた血を拭い、先程の楽しそうな顔とはうって変わって、
 暗く、切ない表情を浮かべていた。
 自分の殺した魔法使い達を見ながら、ぽつりと呟くように言う。

  「……酷い事して……ほんとに……ごめんなさい。」

 電話から聞こえるアデットの声を聞きながら、ティスタは受話器を掛けた。
 魔国『ユグドラ』ギルドに静寂が訪れる。

  「……さて、ご飯食べに行こっと♪」

 どこと無く切なげな笑顔を浮かべながら、ティスタは血の海となったギルドを後にした―――…



 血の海となったギルドに、ごそごそと動く影があった。

  「っ……」

 右肩から大量の血を流し、激痛に耐えながら起き上がったのはフィオラだった。

  「っ……痛いなぁもぅ……メディアーザさん、シーファ、だいじょ―――…」

 痛む肩を押さえ顔を上げた瞬間、フィオラは絶句した。
 視界に飛び込んできたのは真っ赤に染まった店内。
 人一人動いてはいなかった。

  「う……そ……全滅……?
  そんな……ッメディアーザさ……あ……シーファまで……?
  あ……ぁぁ……いやぁぁぁあああああああああぁあああッ!!!!!

 現実をたたき付けられたフィオラは、血塗れになったメディアーザの死体を抱き、
 狂ったかの様に叫んだ。ただ、ひたすらに―――…


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筱

Author:筱
初めまして。
管理人の筱 - シノ - と申します。

現在

『Battle Mermaid』

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